Room10  

2012.11.1

リアリティを追求した〈秘密の空間〉

女心を閉じ込めた里美の部屋

美術監督 松塚隆史

〈生〉と〈性〉というテーマに堂々と向き合った、タナダユキ監督の最新作『ふがいない僕は空を見た』。苦しい現実と向き合う事が困難で、逃避するように高校生の卓巳と情事に溺れる主婦・里美。彼女にとって唯一笑顔になれる場所はベッドルームでした。シンプルな中に、恋しい人を想う女心が見え隠れする部屋はどのように出来上がったのか、美術監督の松塚隆史さんに語ってもらいました。

ふたりの大事な時間を紡ぐシンプルなベッドルーム

“あんず”と名乗り、夫のいぬ間に高校生の卓巳をマンションに招きいれる里美。この主人公の家は、原作にもあるような東京郊外の雰囲気を出すため、東京都小平市のマンションが選ばれた。「決め手はリビングが広いこと、あとはベッドルームとリビングが繋がっていることでした」。
「生っぽさ」を活かしたかったという、里美と卓巳が情事に至るベッドルームは、柔らかい光が少しだけ差し込む、ほの暗い空間。「部屋には、3つの窓があったのですが、そのままだと明るすぎるので2つの窓を、壁をつくって塞ぎました」。第一に考えたのはシンプルさ。配色はホワイトやベージュなどナチュラルな色合いを中心にまとめられている。「里美の着るピンク色のカラフルなコスプレ衣装をより際立たせるために、あえて衣装と同じ色のものは置かないようにしました」。
アニメ好きの女性の部屋なのに、フィギュアなどがたくさん飾ってあるようなオタクっぽさはない。「あんずは清潔な人ではあるし、卓巳を部屋に入れているから、彼に見せたくないものは出しておかないんじゃないかと。だから、棚にはところどころ隙間を空けています。これはもともと『ここに何か隠したいものがあったんじゃないか?』という隙間なんです。実は同人誌も並べているんですが、気付かないくらいです」。
リビングもベッドルームとそろえてシンプルな印象。「ただ、そこには夫の主張はないように。あっても、お義母さんの主張を入れるかどうか……。でも、そこからいろいろ想像出来てしまうのも違うと思ったので、なるべく情報が入らないようにしました。ベッドルームとは逆に、自然光を生かした明るい部屋を目指しました」。
角部屋のため窓も多いので採光が良く、バルコニーやテラスもあって開放感のあるつくり。部屋が多くプライベートな空間をつくりやすい。キッチンからも、ダイニングが見える都会的な印象の間取り。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#79(2012年12月号 10月18日発売)
『ふがいない僕は空を見た』の美術について、松塚さんのインタビューを掲載
プロフィール

松塚隆史

matsuzuka takashi
68年北海道生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。『犬猫』(04)、『14歳』(06)などに参加、『愛のむきだし』(08)、『冷たい熱帯魚』(10)、『ヒミズ』(12)など近年は園子温監督作も多数。『希望の国』が10/20〜公開。
ムービー

『ふがいない僕は空を見た』

監督/タナダユキ 脚本/向井康介 出演/永山絢斗 田畑智子 窪田正孝 原田美枝子 配給/東京テアトル(12/日本/142min) 助産院を営む母子家庭で育った高校生・卓巳(永山)。あんずと名乗るアニメ好きの主婦・里美(田畑)にナンパされ、自宅に招かれる。そしてふたりは情事に溺れるようになるのだが、その写真が何者かによってバラまかれてしまう……。11/17〜テアトル新宿ほか全国公開 ©2012「ふがいない僕は空を見た」製作委員会
『ふがいない僕は空を見た』公式HP
https://www.toei-video.co.jp/special/fugainaiboku/
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