Room81  

2018.8.27

憧れと嫉妬が交錯する

ニナと累の共同生活

美術監督 相馬直樹

松浦だるまによる「美醜」がテーマのコミックを映画化した衝撃作『累-かさね-』。「美しきニナ」と「醜い累」を、土屋太鳳と芳根京子がそれぞれ一人二役で演じる。不思議な口紅の力によって、顔を入れ替えるという禁断の契約を交わしたふたり。彼女たちが共同生活を送ることになる部屋を手がけたのは、美術監督の相馬直樹さん。佐藤祐市監督とは『脳内ポイズンベリー』以来2回目のタッグとなる本作で、どの様な世界を生み出したのか。

間仕切りのない、広い舞台のような部屋

舞台女優のニナ(土屋太鳳)の住まいは、下北沢のような小劇場の多い街から徒歩20分ほどのところに建つ1LDK。セットでつくられた部屋の中は、一人暮らしにしてはかなり広い空間だ。「間仕切りを入れる案もあったのですが、あえてそれは取り払って寝室もカーテンで仕切りをつけ、広いワンルームの扱いにしています」と相馬さん。 ニナは売れている女優ではなく、すごいお金持ちというわけでもないので、家賃はそんなに高くない想定です。古い団地を住民各々がリフォームして使っている、スケルトン物件(床・壁・天井・内装などが何もない、建物の躯体だけの状態の物件)のような場所で、その一室を前の住人が素敵な雰囲気にリフォームしたという設定でニナの部屋をつくり込んでいきました」

「いい感じに部屋へ光が入る空間」を狙い、採光も良い
広い窓にした。「夜のシーンも多いので、部屋の各所に
電飾は細かに入れています」。

人物が立つように、壁はあえてシンプルに。そうはいっても、布もので意識的に色を入れ、飾りも細やかに入れている。 「クラッシックな洋風の雰囲気を出したくて、床はヘリンボーンにしました。矢羽貼り(やばねはり)とも言いますが、古い和洋折衷の建物に多い床材です。普通のフローリングよりも、雰囲気が締まるかなと思って使いました」

リフォーム前は間仕切りがあったであろうキッチンスペース。あえてカウンターキッチンにすることで、対面での芝居も生まれ、演者の動きの幅も広くなった。

ニナは不思議な口紅の力で、累(芳根京子)と顔を入れ替える契約を交わす。外見に自信のない累は、美貌を持ったニナの顔に変わっても、強い劣等感が拭えないでいる。 「ニナは累にファッションなど様々なアドバイスをするので、もともと美意識の高い女性だろうと。『貧乏な生活はしたくない』というプライドもあるし、自分自身に対してストイックな部分もあるので、彼女の家の中もセンス良くしたいなと思っていました。

顔を変えてしまう力を持った不思議な口紅は、累の母の形見。持道具のスタッフがオリジナルで準備した。

高価なものではないけど、ユーズドのものを交えながら一つ一つこだわって選んだ感じにしています。ただ、女の子の部屋だからといって、ただかわいらしい雰囲気にするのではなく、壁をブルーにしたり、くすんだパープルをキーカラーに使ったりと、ちょっと冷たさも出しました。それはニナのちょっとキツい性格を考えてのことでもあります」

ニナの寝室。仕切りのカーテンや衣装や小物などで色を入れてアクセントをつけた。

ニナの顔になった累は女優としての才能を発揮し、オーディションに合格。顔を入れ替える生活を続けていくことになったふたりは、この部屋で共同生活を送ることになる。相馬さんは、部屋の一部を累のスペースと考え、芝居の流れにこだわりのある佐藤監督のリクエストを汲みながら、動線を考慮して飾りを足していった。 「共同生活するようになってからの変化というと、累用に折りたたみ式の簡易ベッドを入れて、その周りに彼女の荷物を置いたくらいです。ニナに追いやられていて居心地悪そうにしている感じを表現したかったので、あえて累の場所を広げないようにしました」

累の居場所は簡易ベッドのみ。その簡易ベッドも普段は場所を取らないようにたたんで置いてある。

 

本作の大きな見せ場のひとつ、舞台のシーン。劇中に登場する、「かもめ」「サロメ」というふたつの舞台美術では、相馬さんは「自分としてはどちらも“アートしている”んです」と振り返る。 「『サロメ』はシルクロードっぽく、『かもめ』は白を基調にして、和と洋といった感じでつくり込んでいます。舞台美術の要素はニナの部屋にも入れていて、壁の塗装などのテクスチャーは何度も塗った感じを出してみました」

エキゾチックな雰囲気の「サロメ」の舞台での、ダンスシーンは圧巻。

幻想的な「かもめ」の舞台美術は、養生ビニールを白く
塗って敷き詰めたのだとか。

柱を残して建具は取り払い、広々とした空間にリフォームした1LDK。もともと和室だったところを洋風にリフォームして壁を取り払い、寝室に。女優の部屋だからこそ、クローゼットの大きさや鏡台まわりは充実している。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#114(2018年10月号 8月18日発売) 『累-かさね-』の美術について、美術監督 相馬さんのインタビューを掲載。
プロフィール

相馬直樹

soma naoki
64年北海道生まれ。アタッカンテ所属。『海猿』『20世紀少年』など話題作に携わる一方、ドラマ、CMと幅広いジャンルで美術監督として活躍。近作に『天空の蜂』『ピンクとグレー』(ともに16)、『ミックス。』『ナラタージュ』(ともに17)、『リバーズ・エッジ』『OVER DRIVE』『虹色デイズ』(すべて18)がある。
ムービー

累-かさね-

監督/佐藤祐市 原作/松浦だるま 出演/土屋太鳳 芳根京子 横山裕 檀れい 浅野忠信 ほか 配給/東宝 (18/日本/112min) 大女優を母に持ちながらも、顔の大きな傷に劣等感を抱えて生きてきた累。美貌を手にしながらも女優として芽が出ず苛立ちを募らせる舞台女優・ニナ。ふたりを結びつけたのは、累の亡き母が遺した口紅。それは、キスした相手の顔を奪い取ることができる、不思議な力を秘めていた――。9/7~全国東宝系にて公開 (C)2018映画「累」製作委員会 (C)松浦だるま/講談社
累-かさね-公式HP
https://twitter.com/kasane_movie
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