Room75  

2018.2.14

マキアとエリアルが紡ぐ

かけがえのない暮らしの風景

美術設定・コンセプトデザイン 岡田有章

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』の脚本で知られる岡田麿里が初めて自らメガホンを握る『さよならの朝に約束の花をかざろう』。長命の一族・イオルフの民である少女・マキアが、人間の赤ん坊と出逢い、育てていく中で、強く優しく成長していく姿を描く。一瞬のようで永遠でもあるふたりの日々、その暮らしの風景はどのように描き出されたのか? 美術設定の岡田有章さんにその制作の背景を聞いた。

素材の違いで時代と繁栄を描き分ける

険しい山々に囲まれ、隔絶された土地にあるイオルフの里。イオルフは数百年の寿命を持ち、歳を重ねても姿は少年少女のままという、長寿の一族だ。イオルフの少女・マキアは両親を亡くし、どこか寂しさを抱えながら、長老・ラシーヌと共に暮らしている。 「この作品はファンタジー、時代としては中世をイメージしました。イオルフの建造物は、全体的に手づくり感のある外観にしています。長老がマキアとともに暮らすのは、石灰岩の岩山をくり抜いてつくった家です。ただ洞窟を掘っただけにしてしまうと、地球上のどこかにありそうな場所になってしまうので、『これを掘るのはものすごく大変だっただろう!』と感じるつくりにしています。イオルフの民は寿命が400年くらいあり、昔はもっと人数も多かったという設定なので、コツコツ掘ればできなくはないかなと(笑)」
「人里離れた、普通の人ではたどり着けない隔絶された場所」にあるイオルフの里の全景。美術ボードは、美術監督の東地和生(ひがしじかずき)さんによるもの。

イオルフ長老の家/居間

イオルフ長老の家/マキアの部屋

イオルフにとってはそれが記録の役割も果たす。彼らの素朴で穏やかな日常は、あるとき長寿の血を狙うメザーテ軍によって崩される。すべてを失いひとりぼっちになったマキアが放浪の果てに出逢ったのは、親を亡くした赤ん坊だった。

「ヒビオルの塔」内部から見上げた風景。ヒビオルが半透明
に透け、美しく重なり合う。

岡田さんによる、綿密に組み立てられた「ヒビオルの織り機」の図解。設計するために実際に織り機の見学にも行ったのだとか。

 

その子どもを育てると決意したマキアは、ミルクをあげようとヘルム農場のヤギ小屋に入り込む。ここで、女手一つで息子二人を育てているミドに助けられ、マキアは彼女の家に居候させてもらうこととなる。 「産業革命の前で、ミドの家は地方の外れの村という設定なので、電気も水道もない。まずは、この家族はどんな風に生活しているんだろう?と想像して、キッチンのある母屋の内部から考えていきました。ミドはヤギの乳でチーズをつくって生計を立てているので、チーズづくりのための大きな釜を配置し、これは暖炉を兼ねているといった形にしました。大きなストーブは、煮込み料理ができるように上部を鍋が置けるつくりに。水道がないので、水場を考えるのには少し苦労しました」
東地さんによるヘルム農場の美術ボード。「外には堆肥をためておく場所をつくり、ヤギ小屋の裏側には段差をつけてヤギが出ていかないようにと考えました。ロケハンに行ったわけではないので、様々な農場の資料を部分的に組み合わせて農場の暮らしをイメージして描いています」

母屋裏の家畜小屋

母屋には、女主人のミドと、息子のラング(兄)とデオル (弟)の3人が暮らしている。この母屋は建て増しした部分。

物置は、もともと先祖が入植した当時は母屋だったという設
定。この物置を片付け、マキアと赤ちゃんが暮らすことに。
ロフト部分を寝床にしてベッドを配置。機織りでなんとか生
計を立てて暮らす。

ミドの家には電気が通っていないため、昼は外光を取り入れ、夜はランプで明かりを探っている。
エリアルと名付けられた子どもはやがて成長し、ふたりはヘルム農場を後にすることに。少年へと成長したエリアルとマキアが生活を築くのは、「鉄の町・ドレイル」だ。
「ドレイルで参考にしたのは、世界遺産になっている街並みです。建物はまったく違いますけどね」
「ドレイルは街のここそこに鍛冶屋さんが工房を持っていて、生活用のものも含めて無数の煙突が並んでいるような場所をイメージしました。ふたりのアパートは、三角屋根の部分にある小さな部屋で、屋根の手前が居間、奥が寝室という風に分けました。ヘルム農場はわりと自然の木をそのまま使っているのですが、ドレイルの住まいでは切り出した石材を使いました。マキアが働く大食堂は、石やレンガを組み立てたつくりに。メザーテも石でつくられた町なのですが、ドレイルでは不揃いなものにしてデコボコ感を出しています」

マキアのアパート

鉄鋼業を中心に栄えているドレイルでは、地方各地から出稼ぎで働きに来ている人が多い。そんな労働者たちの憩いの場となっている大食堂で、マキアは働いている。

建物の素材によって、町ごとに変化をつけたという岡田さん。何よりも大変だったのは、イオルフに攻め入る大国・メザーテだったと振り返る。 「メザーテは、物語に登場する中でも最も繁栄を感じさせる町でなければならないので、細部の描写にはかなり手間をかけました。壁には細かいレリーフやオーナメントを付けたり、アーチにも細かな模様を描き込んだりしました。
メザーテ王都の中央にそびえ立つ150メートルの塔。「豪華さと神聖さ出すためには高さが必要だったのですが、実はこの建物、どう考えても鉄骨が入っていないと建築では無理だと思うんです。葛藤がありつつも、ここはつくってしまおう!と(笑)」
ヘルム農場に建つミドの家の間取り。母屋にはマキアの住まいとなる物置が併設。ヤギ小屋は裏手にある。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#111(2018年4月号 2月18日発売) 『さよならの朝に約束の花をかざろう』の美術について、美術設定・コンセプトデザイン 岡田さんのインタビューを掲載。
プロフィール

岡田有章

okada tomoaki
60年東京都生まれ。83年映画版『クラッシャージョウ』の背景で業界入り。以降、美術監督他として数々のアニメに参加。近作に、アニメ映画『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』(11)、テレビアニメ『翠星のガルガンティア』(13)、『ガンダム Gのレコンギスタ』(14-15)、『クロムクロ』(16)などがある。コンセプトデザインとして参加する『A.I.C.O. Incarnation』は3/9よりNetflixで全世界配信スタート。
ムービー

『さよならの朝に約束の花をかざろう』

監督・脚本/岡田麿里 声の出演/石見舞菜香 入野自由 茅野愛衣 梶裕貴 配給/ショウゲート (18/日本/115min) 長命の一族・イオルフの民は、人里を離れ静かに暮らしていた。その穏やかな日々は、長寿の血を求めるメザーテ軍によって一瞬で奪われる。すべてを失い、一人ぼっちになったイオルフの少女・マキアは、彷徨った森の中で親を亡くした赤ん坊と運命的に出逢い、彼を育てていくことを決意する。
2/24〜全国公開 ©PROJECT MAQUIA
『さよならの朝に約束の花をかざろう』公式HP
http://sayoasa.jp
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