Room74  

2018.1.16

うとましくも愛おしい

“犬猿”の仲の兄弟の暮らし

美術監督 寺尾淳

お互い知り過ぎているだけにうとましく、ときに羨ましくもある。関わりたくはないけれど、血が繋がっているからそうもいかない。そんな兄弟・姉妹の複雑な関係を、ユーモアとシリアスを交えた独自の視点で描く、吉田恵輔監督作『犬猿』。数年ぶりに現れた、天敵の兄と生活を共にすることになった弟。そして、ルックスのいい妹に、激しい嫉妬を抱く姉。そんな登場人物たちの背景を、美術監督の寺尾淳さんは、彼らの住まいにどう反映させたのだろうか。

部屋の細部で表した兄弟・姉妹の気性

印刷会社の営業職である和成(窪田正孝)が暮らすのは、二階建てのアパートの一室。真面目で堅実で、父の借金を返済しながら老後のためにわずかな貯金をする日々を送っている。 「贅沢にも興味はなく、無駄遣いもしない。そういう性格の男なので、そんなに豪華な部屋には住まないだろうと考えました。これといった趣味もないので、部屋の飾りを考えるときには拠り所がなく、少し苦労しました。全体的に比較的すっきりとした印象にして、棚には勤めている印刷会社のカタログを、デスクまわりにも仕事関連のものを並べています」
ソファの脇には、和成が過去、仕事で手がけたお気に入りのポスターがまとめて置いてある。
ある日、そんな和成のもとに、刑務所から出所した兄・卓司(新井浩文)が訪ねてくる。天敵である兄の急な来訪に戸惑う弟をよそに、横暴な卓司はしばらくここに住むというのだった。 「卓司は刑期を終えて、身一つで和成の部屋に転がり込んできます。ですから、一緒に暮らし始めたからといって、部屋の中に大きな変化はつけませんでした」

和成はほとんど料理をしないので、キッチンに飾ったの
は最小限の調味料のみ。

そんな犬猿の仲である兄弟の実家にも、この「兄の横暴さを表したところがある」のだとか。 「実家は父と母の二人暮らしなのですが、家族で集まる居間には、兄が若い頃に集めていたものをここそこに置いています。兄のものが居間にまで侵食してきているけど、親も何も言えず“捨てるに捨てられない”。そんな雰囲気が欲しいと要望がありました。そこで、ちょっと懐かしい感じの海外のナンバープレートやダーツボードなどを置いてみました」

「実家の場合、生活の中でいろいろなものを少しずつ買い足していくので、あえてちぐはぐになるよう装飾しています。年月を重ねた感じを表現して“実家感”が漂うようにしました」

兄弟が帰ってきたときに皆で集まる居間は普段は客間と
して使っている。奥の小さなコタツのある部屋が、父母
が普段食事をしたりする生活空間という設定に。
もう一方の“犬猿の仲”である姉妹は、母と寝たきりの父との実家暮らし。親から受け継いだ小さな印刷会社の社長である姉・由利亜(江上敬子)は、取引先で働く和成に恋心を抱いている。しかし見た目にコンプレックスがあり、ルックスのいい妹・真子(筧美和子)が何かと癇にさわるのだった。
「姉は実はかわいいものに憧れがある。だけど不器用だから、オシャレな部屋にはできない。『かわいいと思ったものをあまり考えずに買い足した』ため、なぜだか変な感じになってしまった。そんな雰囲気をリクエストされたので、あえて統一感をなくしました。親から受け継いだ印刷所といっても、そこの社長ではあるので、ベッドはセミダブルのちょっといいものを置いています」 和成の部屋も、由利亜の部屋も、共通してリクエストされたのは、壁を飾ることだったと寺尾さんは振り返る。
印刷所を営む由利亜の部屋。「仕事を家に持ち込むタイプ」なので、本棚にはデザインに関する資料などを置いている。
「『犬猿』は、人物の表情を大事にしないといけない映画だと思うんです。表情を見せたいヨリのカットになったとき、背景に何かしらあるようにしたかったのではないかと。和成の部屋は長押(なげし)に服をかけたり、由利亜の部屋は壁にタペストリーやウォールポケットをかけたり、少しずつ工夫しました」
地方都市という設定もあって、間取りは少し広めの2DK。和成は会社には車で通っているため、駐車場付き。奥の二部屋がどちらも畳だったことが、吉田恵輔監督がここをロケセットに選んだ理由なのだとか。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#110(2018年2月号 12月18日発売) 『犬猿』の美術について、美術監督の寺尾さんのインタビューを掲載。
プロフィール

寺尾淳

terao jun
72年東京都生まれ。装飾として『ハンサム★スーツ』(08)、『南極料理人』(09)、『ツナグ』(12)、『金メダル男』(16)、『ReLIFE リライフ』(17)などに参加。美術として参加した作品に『つむじ風食堂の夜』(09)、『王様とボク』(12)、『滝を見にいく』(14)、『変態だ』(16)、『東京ウィンドオーケストラ』『一礼して、キス』(ともに17)など。
ムービー

『犬猿』

監督・脚本/吉田恵輔 出演/窪田正孝 新井浩文 江上敬子(ニッチェ) 筧美和子 配給/東京テアトル (17/日本/103min) 父の借金を返しながら堅実に生きる弟・和成と、強盗の罪で服役した金遣いの荒い凶暴な兄・卓司。見た目は良くないが勤勉な姉・由利亜に、ルックスはいいが要領も頭も決してよくない妹・真子。兄弟・姉妹だからこそ生まれる羨望、嫉妬、愛憎……それはやがて思いもよらない展開を巻き起こす。18年 2/10〜テアトル新宿ほか全国公開 ©2018「犬猿」製作委員会
『犬猿』公式HP
https://www.toei-video.co.jp/special/kenen/
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