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Room69  

2017.8.25

ふたりの冷たい距離を感じる

加瀬夫妻の増築した住まい

美術監督 安宅紀史

劇団イキウメの劇作家・前川知大の戯曲を、『岸辺の旅』『クリーピー 偽りの隣人』の監督・黒沢清が映画化した『散歩する侵略者』。どこにでもいるような不仲な夫婦の間に起こった、ある「異変」。それはやがて当たり前の日常を混乱へと導いていく――。「侵略者」に乗っ取られた夫・真治(松田龍平)。夫に振り回されながらも現実に立ち向かう妻・鳴海(長澤まさみ)。美術監督の安宅紀史さんは、このふたりの距離感をどのように表現したのか?

芝居が途切れない、自由度の高い空間づくり

『散歩する侵略者』の舞台は「日本にあるどこかの地方都市」。そこに暮らす加瀬鳴海(長澤まさみ)と真治(松田龍平)がこの物語の主人公だ。この夫婦の家をロケセットでつくるにあたり、美術監督の安宅さんは「チャレンジし甲斐があった」と振り返る。
「いちからセットを建てるのと違い、ロケセットはもともとあるものをポイントとして活かせるところや、空間の面白さを求めます。今回のロケセットは、2棟あった公団のような建物をぶち抜いてひとつの家にした、継ぎ足しのようなつくり。この少し変わった間取りが魅力的でした」

アトリエは、はめ殺しの窓や天井、パーテーションに至るまで「斜め」にデザインされている。

昨年の7月末から8月にかけて行われた撮影。庭に継ぎ足す形でつくられたアトリエにはエアコンがなかったため、撮影は夏の暑さに耐えながら行われたそう。劇中のクールな色彩からは想像もできない。

壁に貼られた絵は、劇中に登場する鳴海の作品を描いた作家さんの手によるもの。「何人かで分担して描くと統一感が出ないので、作家さんの過去の作品などをお借りして飾りました」。

鳴海と真治は不仲な夫婦。その不安定な関係を感じられるよう、安宅さんは家の端々に「斜め」の要素を盛り込んだ。ふたりの間の危うい距離感は、間取りにも表れている。
「鳴海のアトリエは、後から増築したという設定なので、実際ロケセットにも、庭の空きスペースにいちから建てて、はめ殺しの窓(壁にはめ込んだ、開閉できない固定された窓)のある短い廊下で家とアトリエを繋ぎました。もともとふたりは同じ寝室で寝ていたけども、関係が疎遠になるに従って、鳴海はアトリエで寝起きするようになり、もとの寝室は、いまは真治の部屋になっている、という設定です」

真治の部屋には「以前はここに妻もいたのかな、という匂
いを残そう」と、鳴海の油絵が飾られている。カーテンを
挟んだのは「黒沢監督の意向も踏まえて、鳴海が真治を覗
き見しているような感覚を残したかったから」。

2階建の一軒家だが、それぞれの空間をあえて1階と2階に分けず、同じフロアで若干の距離を置くのに留めたのは、どんな理由があるのだろうか?
「黒沢監督の現場では特に意識していることでもありますが、芝居が途切れず動ける、自由度の高い空間の方がいいなと思い、この間取りにしました。こうしか動けないという飾り方やつくりにしてしまうと、やりづらくなってしまう。たとえばダイニングキッチンでも、袋小路にならずに動けるように。それから、ここでは柱をポイントにしています。柱は空間的なアクセントにもなりますし、ちょっとした死角にもなる。リビングにある斜めのパーテーションもそういった役割で入れています」

大幅につくり変えたロケセットだが、「リビングの布で出来た壁と、床の雰囲気はアクセントになるなと思い、そのまま活かしました」。

リビングと真治の部屋を繋ぐのは斜めのラインが入ったガ
ラス建具。「建具の開け方によって斜めのラインの見え方
が変わってくるようにしたかったんです」

映像に映るふたりの住まいは、「北欧映画のような温度の低いトーン」。これは撮影の芦澤明子さんが冷え切った夫婦の関係を考え意図したもので、美術も呼応するように「暖色系は意図的に抜いて、くすんだ色系統で統一しています」。青や白、グレーといった冷たい色味を使っている中、唯一差し色程度に暖色が入っているのが、アトリエのデスクまわり。これは、鳴海の作品の個性を考えてのことだという。

「鳴海は本来、自分のカラーを反映させた作品をつくりたいのだけども、それが仕事に直結しないジレンマを抱えている。その感じを飾りでも補強できたらと、大きな油絵を飾ったり、油絵の道具を置いたりしています。もともとは画家になりたかったというニュアンスが出せたらと考えました。逆に、真治の部屋には色を入れず、男のひとり暮らしのような生活感を演出しました。食べ残しがあったり、脱いだ衣服が散乱していたり、読みかけの雑誌があったり……。あまり妻と一緒にいなんだなという感じを出そうと飾っていきました」

広い空間を、建具やパーテーション、階段などを活用して上手に仕切っている。もともとは別棟だったであろうダイニングキッチン部分には勝手口もあり、暮らしやすそうな間取り。庭に建てたアトリエは壁の一面が窓になっていて採光が良い。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#109(2017年10月号 8月18日発売) 『散歩する侵略者』の美術について、安宅さんのインタビューを掲載。
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プロフィール

安宅紀史

ataka norifumi
71年石川県生まれ。代表作に、『南極料理人』(09)、『ノルウェイの森』(10)、『マイ・バック・ページ』(11)、『横道世之介』(13)、『女が眠る時』(15)など。『叫』(07)、『Seventh Code』(14)、『岸辺の旅』(15)、『クリーピー 偽りの隣人』(16)と黒沢清監督作にも数多く参加。近作に『ふきげんな過去』『聖の青春』(すべて16)、『PARKS パークス』『美しい星』(ともに17)がある。
ムービー

『散歩する侵略者 』

監督/黒沢清 原作/前川知大「散歩する侵略者」 脚本/田中幸子 黒沢清 出演/長澤まさみ 松田龍平 高杉真宙 恒松祐里 長谷川博己 ほか 配給/松竹 日活 (17/日本/129min) 行方不明だった夫・真治がまるで別人のようになって戻ってきた。不仲だった夫婦に訪れた突然の「異変」。戸惑う妻・鳴海をよそに、何事もなかったように毎日散歩に出る夫。一体何をやっているのか?と問い詰めると、夫は衝撃の告白をする――「地球を侵略しに来た」。9/9~全国公開 ©2017『散歩する侵略者』製作委員会
『散歩する侵略者 』公式HP
http://sanpo-movie.jp
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