Room64  

2017.3.17

瀬戸内海と瀬戸大橋を望む

坂の上のお家

監督 神山健治

『東のエデン』『精霊の守り人』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で知られる神山健治監督が、自ら原作・脚本を担いメガホンを取った初の劇場オリジナル作品『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』。「夢」をモチーフに、いまより少し先の未来で起こる、主人公・ココネの“知らないワタシ”探しの旅を描く。夢とリアルを行き来する少女の暮らしにどのようにアプローチしたのか? 神山健治監督自身にきいた。

ココネの身の回りの環境が夢の世界につながる

主人公の女子高生・ココネが父とふたりで暮らしている岡山県倉敷市は、神山監督自身がロケハンしている中で出会った町。「穏やかな瀬戸内海が広がって、太陽が眩しい。日本人の原風景のひとつと感じて、この物語の舞台に決めました」。 ココネの家が建つのは、本瓦葺きの屋根の家屋や土蔵など古い町並みが残る下津井のあたり、という設定。細い裏路地が規則性もなく伸びていて、坂道が多いのも「アニメの舞台にしやすかった」という。

冒頭に登場する通学路など、下津井の街をほぼそのまま描写しているところも。「ココネの家の位置は具体的に描いていないですが、地元の方なら『この辺りかな?』とイメージできるかもしれないですね」

「ココネの家は、実際下津井に多く建っている古い家々よりも少しだけ新しく、昭和に建てられたというコンセプトです。父は自動車工場を営んでいるので、家の隣にガレージを併設しました。自動車メーカーの色あせたホーローの看板があるような、古き良き田舎の工場で、のんびりとした独特の雰囲気を出したかった。劇中では『坂の上の自動車工場』と呼ばれていて、ガレージの奥や家の庭からは瀬戸内海と瀬戸大橋が見えます。とてもロケーションがいいので、もし実在したら素敵な家なんじゃないかな」

CGチームがつくったガレージ内。「CGで室内だけ“建て込んで”います。実写映画でいうとセットのような感じ。小物もすべてCGでつくり込んでもらいました」。一方、外観は手書きで描かれている。

「半径2メートル以内に置いてあるもので、だいたい生活できる。これで、猫や犬がいたら、すべて完結するくらい住み心地は良いと思っています。ちょっと散らかっていますけどね(笑)」

自動車のパーツは工場だけでなく、家の中にまで広
がっている。「踏んだら痛そうなネジなんかも落ち
ていたりして。車のことしか頭になくて、つい家の
中でも仕事をしてしまう、“父のちょっとダメな感じ”
を出したかった」

神山監督が悩んだのは、ココネの部屋の生活感をどのように表現するかだった。 「幼い頃に母を亡くし、祖父母がいたとはいえ、無骨な父に育てられたとすると……ココネは女の子が欲しがるものはあまり買ってもらえなかったんじゃないかな、と。あまり裕福な環境でもないですしね。ピンクの壁や椅子など、後天的に手に入れた女の子らしいものもあるけど、よく見ると部屋にあるチェス盤にはエンジンのバルブピンを駒にしたりして、ちょっと男の子っぽい小物も置いてあるんです」

ココネの育った環境は、ココネの夢の世界であるハートランドにも影響している。「ハートランドのイメージは、幼い頃にお父さんから聞いたおとぎ話がもとになっています。でも、実はそれはお父さんが若い頃に東京にいた頃のお話。それを知らないココネが自分の頭の中で想像しているから、建物は鉄でできていたり、お城がエンジンのシリンダーヘッドだったりする(笑)。だから、一般的に女の子が想像するおとぎ話の世界っぽくはないんです。その設定はスタッフと綿密にルールをつくって決めたところ。ファンタジーってどこか設定を楽しむ部分があるので、その設定がぶれないように、隙ができないように心がけました」

母屋は、親子のミニマムな暮らしが垣間見える4Kの間取り。母屋の廊下は併設したガレージに直接繋っている。この造りは神山監督の理想なのだとか。「家の廊下がそのまま仕事場につながっているのは、僕の夢のひとつなんです(笑)」

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#105(2017年4月号 2月18日発売) 『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』の美術について、神山さんのインタビューを掲載。
プロフィール

神山健治

kamiyama kenji
66年埼玉県生まれ。背景美術、美術監督を経て、02年映画『ミニパト』で監督デビュー。おもな作品に、テレビアニメシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(02)、『精霊の守り人』(07)、『東のエデン』(09)、映画『009 RE:CYBORG』(12)では、初のフル3D 劇場作品を監督した。
ムービー

『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』

監督・脚本/神山健治 声の出演/高畑充希 満島真之介 江口洋介 ほか 配給/ワーナー・ブラザース映画 (17/日本/111min) 昼寝が得意な女子高生・ココネは最近、不思議と同じ夢ばかり見る。無口で無愛想な父は自動車の改造に明け暮れるばかり。しかし、2020年の東京オリンピック3日前、突然その父が逮捕されてしまう。ココネは連行された父を追い、幼馴染のモリオと東京へ向かうのだが……。3/18〜全国公開 ©2017 ひるね姫製作委員会
『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』公式HP
http://wwws.warnerbros.co.jp/hirunehime/
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