Room63  

2017.2.17

「毎日帰りたくなる」

幸せであたたかい場所

美術監督 富田麻友美

『かもめ食堂』『めがね』荻上直子監督が、「第二章の始まり」と語る5年ぶりの新作映画『彼らが本気で編むときは、』。トランスジェンダーの女性・リンコ(生田斗真)とその恋人・マキオ(桐谷健太)。そして、愛を知らない小学生・トモ(柿原りんか)。家族ではない3人の特別な暮らしを、荻上作品では初となるセットでつくった美術監督の富田麻友美さん。この「幸せを感じるあたたかい家」が出来上がるまで。

風通しの良い空間にオレンジの光が交わる

マキオ(桐谷健太)とリンコ(生田斗真)が共に暮らすのは、リノベーションした団地の一室。小さな川が流れる穏やかな街に建つ。立地の設定は町田近辺(東京都町田市)で、「マキオの家は豊かに見えたい」という荻上直子監督のリクエストのもと、セットでつくられた。 「寝室もリビングも、6畳にするか、8畳にするか。6畳プラス少し板間をつくるか、と色々苦心しました。いろんな団地の部屋の広さを調べて、現実とかけ離れないように、リアルにある平米数にしています」

現実的な広さにこだわりつつも、風通しが良くゆったりとした空間を生み出した富田さん。その部屋の雰囲気は、おおらかなマキオのキャラクターと重なるよう。室内がきっちりと整理整頓されているのも、マキオの真面目で几帳面な性格から。

現場のキャスト・スタッフにも「寝心地がいい」と評判だったソファ。

木製の家具の色味を除
き、あえて寒色で配色したのは、「作
品の鍵になる、編み物の毛糸の色がい
ろんな色できれいだったので、それを
活かしたいと思ったからです」

「マキオは、ジャンルは偏らず、いろんな本を読んでいる人。本棚には、外国の小説も織り交ぜながら、様々な書物を置いていきました」。一番下段のひと枠にリンコの本も並ぶ。

「ものを多くするとどんどん“普通のいいお家”になってしまいそうな気がしたので、極力少なくしました。マキオは本屋さんで働いているし、リンコは介護の仕事をしている。収入を考えても、なるたけシンプルにしたかった。もともと『マキオは広い空間に本しかないようなところで暮らしていた』という台本の設定があったので、部屋に本棚は残していますが、ほかは完全にリンコの趣味です(笑)。リンコのものというと、この作品の鍵にもなっている編み物と、お化粧品が少し。介護の仕事を真面目にやっているので、本棚にそういった関連書籍も入っています」

「生田斗真さんは体がしっかりしている方なので、衣装の堀越絹衣さんもいかに美しい女性に見せるかに集中されていたようです。堀越さんの用意して頂いた衣装と内装のマッチングももちろん考えました」

母が家を出てひとりになった小学生のトモは、そんなふたりが暮らす家にやってくる。そこで、母が与えてくれなかった家族の温もりを感じ始めるのだった……。 では、富田さんは、「家族のあたたかさ」をどのように表現したのだろうか? 「それは光だと思います。美術の力だけでは、そのあたたかさはなかなか出ないんです。真っ白な部屋だとしても、太陽の光、タングステンの光であたたかい感じは出ますが、もちろんそれだけではありません。撮影、照明すべてで表現されていきます。私は、映画でもコマーシャルでも、夜のシーンがある場合は、まず照明器具を置きたいところに置かせて頂き、それを撮影監督、照明技師さんにあずけて、料理してもらいます。ない方がよければ、もちろんどんどん外していただきます。でも、今回は照明の上田なりゆきさんが、かなり活かしてくださいました」

荻上監督も、今回はあえて料理シーンを外したんじゃないでしょうか。別の感性でいきたかったのかなと。ですから、キッチンにはあまり細かい装飾はしませんでした」

料理上手なリンコさんがつくった、おいしそうな食事やお弁当が印象的。『かもめ食堂』を始め料理シーンも多かった荻上作品だが、今作ではキッチンでのシーンは少ない。

セパレートの2DKの間取りを、収納を一部取り払ってゆとりある空間にリノベーション。もとは畳だったリビングを板間にしたことで、ダイニングとの統一感が生まれた。畳の寝室は襖で仕切ることができ、それぞれの趣味のものも置けるやすらぎの場所に。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#105(2017年4月号 2月18日発売) 『彼らが本気で編むときは、』の美術について、富田さんのインタビューを掲載。
プロフィール

富田麻友美

tomita mayumi
大阪府生まれ。CM美術デザイナーとして多数の作品に携わる。映画では、98年『落下する夕方』で美術監督デビュー。おもな作品に『ロスト・イン・トランスレーション』(03・アートディレクター)、『好きだ』(05)、『鈍獸』『プール』(ともに09)、『マザーウォーター』『パーマネント野ばら』(ともに10)など。荻上監督作に『めがね』(07)、『レンタネコ』(12)がある。
ムービー

『彼らが本気で編むときは、』

脚本・監督/荻上直子 出演/生田斗真 桐谷健太 柿原りんか ほか 配給/スールキートス (17/日本/127min) 母が男を追って家を出た。ひとりになった小学生のトモは、叔父のマキオの家へ向かうことに。そこには、マキオと一緒に暮らしているトランスジェンダーの美しい女性・リンコがいた。キレイに整頓された部屋、おいしい手料理……優しく迎えてくれるリンコに、トモは次第に心を寄せていく。2/25〜全国公開 ©2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
『彼らが本気で編むときは、』公式HP
https://twitter.com/kareamu
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