Room59  

2016.10.6

マンションの上下階に住む

就活生たちのシビアな舞台

美術監督 小島伸介

『桐島、部活やめるってよ』で知られる朝井リョウが、現代の就活生のリアルを描いた小説「何者」。本作の映画化でメガホンをとったのは、演劇ユニット「ポツドール」を主宰する演劇界の鬼才であり、映画監督としても注目を集める三浦大輔。就活で「自分が何者か」を模索する若者たちのドラマには恋愛、友情、そして裏切りが交錯する――。同じマンションでともに就活にまい進する大学生たちの暮らしを、美術監督の小島伸介さんはどのように形にしたのか?

同じ間取りでもガラリと印象を変えるアレンジ術

大学4年生、日々就活に励む主人公たちの住まいは東京の三鷹あたりにある、4階建ての古いマンション。リノベーション可の物件という設定だが、拓人(佐藤健)と光太郎(菅田将暉)が同居している3階の部屋は、昭和っぽさを残した古い状態のまま使われている。

ごちゃごちゃとものが置いてあるキッチンは、男二人暮らしだからこその片付けられていない感じを出すため。

「ふたりが暮らすようになったのは、光太郎が『一緒に住もうぜ』と声をかけたことが発端。ひとり暮らしをしていたふたりが同居することになった雰囲気をつくるために、冷蔵庫はふたつ置いたりしています。男のふたり暮らしだと、同じくらいの大きさの部屋がセパレートで並んでいるような間取りがよくありますが、今回は拓人のスペースをリビングも兼ねるようにして、光太郎は自分の部屋に行くのにそこを通らないといけないようにしています。なぜなら、部屋の壁の一面を取ると、演劇の舞台のようなセットにしたかったから。部屋の引きのカットではふたりの存在が見えるように、導線や人の動きも踏まえて間取りをつくりました」

高台にある4階建てのマンションという設定なので、ベランダの外には夜景も広がる。「最近は夜景も合成することが多いですが、舞台っぽいセットにしたかったので、背景幕のように、ここもあえて幕を使って夜景や昼の街並みを見せました」

無口で冷笑しているようなキャラクター・拓人の生活スペース。演劇サークルに没頭していたことから、机には台本や演劇雑誌が並ぶ。映画やサブカル的な漫画、書籍にも造詣が深く、棚には、DVDや本が溢れるほど並べられている。

天真爛漫で友達ができやすいキャラクターを意識して飾られた光太郎の部屋。バンド「OVERMUSIC」でボーカル兼ギターをやっているため、楽器が配置されたり、ブリティッシュロックやパンクロックのポスターが壁一面に貼られたりしている。

一方、就活生たちが「就活対策本部」と称して集まるようになるのが、拓人たちの部屋のちょうど真上にある、4階の理香と隆良が同棲している部屋。上下階にあるふたつの部屋は、まったく同じセットを利用して撮影された。 「交際3週間ですでに同棲しているふたりの部屋は、監督と話し合って、もともと理香がお姉さんと住んでいた時にリノベーションをしたという裏設定にしようと決めました」 建具を外したり、床を張り替えたりして、広い1ルームのように見える空間につくり替えた。間取りも広さも拓人たちの部屋と同じなのに、その印象はまったく異なる。

理香の部屋は女性的な落ち着きのあるインテリア。北欧っぽいものをセレクトし、オールドアメリカンな雰囲気もプラス。赤、オレンジを差し色にしてポップさを加えた。「学生なので、あまり高級すぎてもしっくりこない。微妙なさじ加減で飾りました」

「この広い部屋に、隆良が転がり込んできた、と。つきあってすぐに部屋が完成されているのもおかしいですからね(笑)。ふたりはいわゆる“意識高い系”というキャラクターなので、部屋の中は意図的にきれい目にしています。常に人に見られることを気にしている、その心情を反映させました」

シンクはすっきりと、タイルの壁もかわいらしくリノベーションされたキッチン。「使ったのは、多面体になっていてミラーみたいにキラキラ反射するミラールというタイルです。様々なメーカーさんからサンプルを取り寄せて厳選しました」

キッチンの一角に確保された隆良のスペース。アウトドアっぽさも取り入れ、自転車など趣味のものを配置。「隆良はDIYもするだろう」と、小道具スタッフが実際に手づくりした棚には趣味のカメラも並ぶ。壁には自身で撮ったであろう写真も。

拓人と光太郎の部屋の間取り。キッチンと拓人の部屋側の壁を取り払うと、光太郎の部屋まで見渡せる舞台のセットのようなつくりになる。プライベートスペースの確保が難しいつくりからは、ふたりの仲の良さも垣間見えるが、その実態は……?

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#103(2016年12月号 10月18日発売) 『何者』の美術について、小島さんのインタビューを掲載。
プロフィール

小島伸介

kojima shinsuke
79年愛知県生まれ。美術助手として、種田陽平、上條安里に師事。おもに映画・CM のプロダクションデザイン、 アートディレクション、セットデザインを手がける。15年に『ジョーカーゲーム』で美術監督デビュー。公開待機作に『22 年目の告白 - 私が殺人犯です-』(17年初夏)がある。
ムービー

『何者』

監督・脚本/三浦大輔 原作/朝井リョウ 出演/佐藤健 有村架純 二階堂ふみ 菅田将暉 岡田将生 / 山田孝之 ほか 配給/東宝 (16/日本/98min)
就職活動の情報交換のため、ひとつの部屋に集まった5人の大学生。力を合わせて就活を進めていく中、それぞれの考え方、スタンスの違いにより、人間関係に歪みが生じ始める。やがて、仲間からひとりの「内定者」が出たとき、隠されてきた裏の顔が見えてくる……。10/15~全国東宝系にて公開
(C)2016映画「何者」製作委員会 (C)2012 朝井リョウ/新潮社
『何者』公式HP
https://twitter.com/nanimono_movie
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