Room57  

2016.8.19

自然が美しい山間の町に建つ

女子高生・三葉が暮らす家

美術監督 丹治匠

『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などで知られる、国際的にも評価の高い新海誠。気鋭のアニメーション監督が手掛けた最新作が『君の名は。』。夢の中で“入れ替わる”少女と少年、別の場所に生きるふたりの恋と奇跡の物語だ。「エンターテイメントのど真ん中をつくりたかった」という新海監督の世界観を、美術監督の丹治匠さん、渡邉丞さん、美術背景の小原まりこさん、友澤優帆さんはどのように描いたのか?

田舎と都会の差異を美しく色で表現する

ヒロインの宮水三葉が暮らすのは、大きな湖が町の中心にある糸守町(いともりまち)。飛騨の山奥にある架空の町という設定だ。糸守を描くにあたり、諏訪湖をはじめ、湖のある街の風景などを参考にしたと語るのは、美術監督の丹治匠さん。 「糸守は擬洋風建築が多く残っている町なので、宮水家は和洋折衷の古い木造建築にしました。大きな家だけど、祖母と妹との女3人暮らし。女性だけの住まいだからきちんと手入れしていてそんなに傷んでいないけど、庭までは手をかけられないので、草が生えっぱなしになっているところもあります。そういった大まかな設定を考えながらつくっていきました」

宮水家は代々地域の神社を管理している家系。映画に
は登場しないが、家の裏手には山の上の神社へと続く
裏道がある、という設定。

擬洋風建築を意識して、1階の居間から庭に出られる窓には洋風の木製サッシが使われている。外壁も木製で、自然な風合いが生きている。

外廊下の先には組紐の作業をする離れが。糸守を象徴するものが描かれた欄間(らんま)は友澤さんによるもの。「欄間以外にも、神社の神楽殿にある絵や回想シーンに出てくる壁画など、糸守をモチーフにしたものはいろいろな場面で描かれています」(丹治)

毎朝家族がそろって朝食をとる1階の居間は、美術背景の友澤優帆さんが担当。 「ここに一番長く居るのはおばあちゃん。整然とした人なので、毎日ちゃんと掃除された、きれいに片付いた居間だろうと想像しました。妹の四葉ちゃんの小物も少し加えていますが、基本的にざっくばらんにものは置かないようにしています」 小原まりこさんが担当した2階にある三葉の部屋は、清潔感のある爽やかな印象にしたいという意図から配色にも気を配ったそう。 「朝のシーンが多かったので、小物がたくさんあってもごちゃっとした汚い印象にならないように、明るい色のものを入れています。三葉は祖母に教わって組紐もつくれるので、手先は器用だろうと裁縫道具を置いたり、書道も上手そうなので賞状を飾ったり。植物も好きだろうから机の上には植物図鑑を。そうやってイメージしながら足していきました。ピンク色のものが多いのは、実は個人的に好きだからです(笑)」

「畳の色を決めるのは大変だった」と振り返るのは丹治さんと渡邉さん。「宮水家は畳を頻繁に表替えしているだろうから、わりと緑っぽい方がいいのですが、そうすると古くから住んでいる感じが出ない」(丹治)。「結局、緑と黄色の真ん中くらいの色合いに落とし込みました」(渡邉)。

光と影で表現する演出が特徴でもある新海作品。「影の面はブルーで表現することが多いので、三葉の部屋の小物には暖色のものを入れたりして美しい画になるように調整しています」(丹治)

田舎町で育ちながら都会に憧れている三葉は、ある日夢を見る。目覚めるとそこは、東京に住む男子高校生・立花瀧の部屋だった。三葉はなぜだかその男の子の身体と入れ替わってしまっていたのだ。 「三葉に『いつもの部屋と何かが違う』という印象を抱かせたいので、瀧の部屋は東京っぽい洗練された雰囲気を出すようにしました。宮水家の木材は濃い茶色でつやがありますが、この部屋のフローリングは少し黄色っぽいものにしました」と丹治さん。美術監督の渡邉丞さんは、「建築関係の仕事を目指す瀧の部屋」の細部にもこだわりをみせる。 「趣味で描いた現代建築のスケッチや建築関係の本など、瀧くんの興味のあるものを意識的に配置しました。建築に関心があるということは、ある程度かっちりした性格じゃないかなと思いますが、高校生特有のちょっとラフで雑多な感じも混ぜています。新海監督の思う“東京の無機的な少し冷たい色味”を表現するのには、苦労しました。小物もカラフルなものは極力置かないようにしています」

「東京の中でもちょっと高台にある見晴らしのいい場所がいい」という新海監督の希望で、瀧の住むマンションの立地は四ツ谷駅近くの新宿区若葉に。「監督はコンテ作業前や作業中に、まずは一人でロケハンに行かれて、イメージに合った場所に細かい設定などを盛り込んでいくようです」(渡邉)

「瀧の部屋には二方向に窓がある」ところからスタートして出来上がったマンションの外観。「ダイニングにも窓があり、玄関を出たら新宿の風景が見えているようにしたいと監督がおっしゃったので、建物の位置と空間のつじつまを合わせるのはかなり大変でした」 (丹治)

三葉の部屋と瀧の部屋では、時間帯によって日の光の色もシビアに調整していると丹治さんは言う。 「同じ時間帯でも、田舎と東京では日の光の色を変えています。東京の朝なら、クールで爽やかな印象にしたいので、暖色が入らないように空の青が反射した白っぽい感じに。逆に三葉の部屋の光には爽やかなんだけれどもちょっと暖色を入れています。雲の白い部分にも、少しだけ暖色を入れたりして。単純に場所や時間帯だけでなく、そのシークエンスをどう見せたいか、など、いろいろな意図が相まって出来上がっているんです」

三葉の家は台所から居間、客間まで、窓がたくさんあり、気持ちの良い日の光がたっぷり入る構造。2階建てだが、女性3人暮らしのため、家の中には使っていない部屋もある。離れへと続く外廊下は、新海監督の希望によるもの。

美術監督/渡邉丞 watanabe tasuku(右) 83年埼玉県生まれ。東京造形大学 デザイン学科 メディアデザイン専攻領域 卒業。在学中に講師の勧めでアニメ背景美術と出会う。『雲のむこう、約束の場所』(04)以降、すべての新海作品に参加。Z会CM『クロスロード』(14)では美術監督を務めた。
美術背景/小原まりこ obara mariko(中央) 90年岩手県生まれ。女子美術大学 芸術学部 美術学科 日本画専攻 卒業。『言の葉の庭』(13)より、新海作品に参加。
美術背景/友澤優帆 tomozawa yuho(左) 90年千葉県生まれ。多摩美術大学 美術学部 絵画学科 油画専攻 卒業。『言の葉の庭』(13)より、新海作品に参加。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#101(2016年10月号 8月18日発売) 『君の名は。』の美術について、美術監督の丹治さん・渡邊さん、美術背景の小原さん・友澤さんのインタビューを掲載。
プロフィール

丹治匠

tanji takumi
74年福島県生まれ。東京藝術大学 美術学部 絵画科 卒業。04年より新海誠監督のアニメーション映画作品にて美術監督を務めるほか、さまざまな映像美術にたずさわる。参加作品に、『秒速5センチメートル』(07)『星を追う子ども』(11)『るろうに剣心』(12)『バクマン。』(15)ほか多数。近年では、「はなちゃんのぼうし」「かぁかぁもうもう」(ともにこぐま社)など絵本作品も手掛ける。
ムービー

『君の名は。』

原作・脚本・監督/新海誠 作画監督/安藤雅司 キャラクターデザイン/田中将賀 美術監督/丹治匠 馬島亮子 渡邉丞 配給/東宝 (16/日本/107min) 彗星の来訪を控えた日本。田舎町の女子高生・三葉(声:上白石萌音)は、家系の神社の風習を引き継ぐ家に生まれ、憂鬱な日々を過ごしていた。そんなある日、憧れの東京で男の子になる夢を見る。一方、東京で暮らす高校生・瀧(声:神木隆之介)も、山奥の町で女子高生になる夢を見た……。8/26~全国東宝系にて公開 (C)2016「君の名は。」製作委員会
『君の名は。』公式HP
http://www.kiminona.com/
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