Room55  

2016.6.15

古民家の風合いに彩りをプラス

家族で営む食堂兼住まい

美術監督 安宅紀史

劇作家・前田司郎がオリジナル脚本でメガホンをとった監督第二作目にして、小泉今日子と二階堂ふみの競演も注目を集める『ふきげんな過去』。本作の舞台は、もと蕎麦屋のエジプト風豆料理屋「蓮月庵」。家族が営むこの店の2階で暮らしているのが、毎日に退屈している女子高生・果子(二階堂)。日常から抜け出したいと願う主人公の心情を、美術監督の安宅紀史さんはどのように表現したのだろうか?

懐かしさと憧れが混在する場所

北品川に建つ、古びた食堂「蓮月庵」がこの映画の舞台。実際に撮影されたのは、大田区池上で、池上本門寺(東京都大田区)の近くにあった古民家だ。もとは蕎麦屋だった店をカフェに改装するタイミングで制作部がこの建物を発見、カフェのオーナーさんにお願いしてロケ地としてお借りしたという。安宅さんは、「お寺もあるし、ここには裏庭もある。町にも下町の風情が漂っていて、北品川の雰囲気とつながるだろうと感じていました」。

万次の手持ちの武器は、個性的なものばかり。すべて映
画のためにつくられたオリジナル。敵の武器も合わせる
と38種もあるとか。

「もと蕎麦屋のエジプト風豆料理屋」という一風変わった店の店内は、和の空間ながらところどころにアジアの雰囲気が漂う、ちょっと不思議な空間。もとお蕎麦屋さんなのに、中華風の丸テーブルが配置されていたり、無国籍のアイテムや懐かしさを感じるものも飾られていたりする。 「いつの時代の、どこの国のものかもわからないものを意図的に混在させています。よくある食堂のイメージからちょっとずらしたところを狙おうと、前田司郎監督とも話していました。少しの違和感をアクセントに、居心地良くなりすぎない場所にすることで、果子(二階堂ふみ)の心情とも重なってくるのかなと思ったんです」

劇中の食堂の名前「蓮月庵」はロケ地の蕎麦屋の店名をそのまま受け継いだ。店内の蕎麦のメニューも、営業していた当時のものをそのまま使用している。

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「格子の建具や柱、壁の使いこんだ感じは、新しくつくったものだとなかなか出せない。建物がもっている雰囲気を生かしながら空間をつくりました」と安宅さん。

 

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豆料理メニューには前田監督もこだわっており、小道具スタ
ッフが料理開発に試行錯誤したそう。「エジプト“風”なのが
ポイントです。正当なエジプト料理から、ちょっと外れた感
じ。そこも狙いだったと思います」

ロケ地選定の条件のひとつだったという裏庭には、大きな鍋も設置してある。

2階は果子とその家族が暮らす居住スペース。日常にないものに憧れを抱いている果子のキャラクターは部屋の装飾からも感じられる。 「部屋の壁には、外国の風景写真を貼るなど、この和風の部屋にそぐわない、正反対のものを飾りました。あとは、いまっぽい女の子の部屋というより、懐かしさのある雰囲気も出したかったので、近所からもらったおさがりという設定の学習机や、もともと実家にあって気に入って使っているであろうものなどを置きました」

部屋の角にある、L字の窓の外には欄干が飾りのようについている。小泉今日子演じる叔母の未来子がこの窓際に腰かけ、果子と語らうシーンも印象的。

古い木造の建物ゆえに壁回りや建具などの色味が少し沈んでいて重厚な雰囲気になりすぎてしまうことから、「果子の部屋の中には意識して明るめの色を使用した」と安宅さん。 「この映画のリアリティや生活感を考えると、あまり生っぽくなると重苦しさを感じてしまう。色は使用する面積で左右されるので、カーペットやベッドなどにはそこまで強い色は使っていませんが、要所要所に結構いろんな色を使っています。やりすぎると浮いてしまうので、もともとある木の質感と馴染むように、色のバランスには気をつけました」

1階は広い厨房もある食堂。入口の土間からそのまま板間に上がれる設計が個性的。2階の大広間は襖で仕切って家族の部屋に。お店の正面にあたる2階部分が果子の部屋で、広い窓から気持ち良い風が抜ける。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#101(2016年8月号 6月18日発売) 『ふきげんな過去』の美術について、安宅さんのインタビューを掲載。
プロフィール

安宅紀史

ataka norifumi
71年石川県生まれ。99年『月光の囁き』で美術監督デビュー。代表作に、『南極料理人』(09)、『ノルウェイの森』(10)、『マイ・バック・ページ』(11)、『横道世之介』(13)、『紙の月』(14)、『岸辺の旅』『恋人たち』(ともに15)、『モヒカン故郷に帰る』『女が眠る時』(ともに16)。『クリーピー 偽りの隣人』と『貞子 vs 伽椰子』は6/18公開、『聖の青春』が秋公開予定。
ムービー

『ふきげんな過去』

監督・脚本/前田司郎 出演/小泉今日子 二階堂ふみ 高良健吾 ほか 配給/東京テアトル (16/日本/120min) 毎日が退屈な果子(二階堂)の前に突然現れた、18年前に死んだはずの叔母・未来子(小泉)。「死んだままの方が都合よかった」という未来子は、爆弾事件を起こした前科もち。果子(二階堂)はその自由奔放さを疎ましく思いながらもどこか惹かれていく。しかし、未来子が実の母親だと告げられ……。6/25~テアトル新宿ほか全国公開 ©2016「ふきげんな過去」製作委員会
『ふきげんな過去』公式HP
https://twitter.com/fukigen_movie
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