Room53  

2016.4.14

小高い丘の上に建つ

僕と愛猫のかけがえない住み家

美術監督 杉本 亮

『ジャッジ!』で長編映画デビューを果たしたCMディレクターの永井聡がメガホンをとり、主演に佐藤健を迎えた『世界から猫が消えたなら』。余命を告げられた“僕”が“悪魔”と命の取引をかわす……。自身も猫を飼っていることからタイトルに惹かれ、川村元気による原作小説を読んでいたという美術監督の杉本亮さん。“僕”とその愛猫のキャベツが暮らす住まいにはどんなエッセンスを加えたのだろうか。

センスの良い、古き良きものが集う場所

若き郵便配達員の主人公“僕”(佐藤健)がひとり暮らしをする部屋は、繁華街からちょっと路地に入った小高い丘の上に佇む下宿屋のような住まい。「小樽にある外観を撮影した建物には、階段の手すりや窓枠、ランプなど、昔ながらのセンスを感じるものがたくさんありました。セットでつくった室内にも、そういった要素を加えています」

アパートには“僕”の部屋も含め全部で6部屋ほどある想定。撮影用に設置したという玄関の集合ポストは、入居者がいない部屋にガムテープを貼るなどの細かな演出も。

 

ある日突然余命を宣告される“僕”。死と向き合うというシリアスな場面も多い。 「永井監督やカメラマンとは、映画全体のトーンは色を抜いていく方向にしようと打ち合わせをしていました。逆に、“僕”と“彼女”(宮﨑あおい)が旅をするアルゼンチンの画では一気に色を入れていこうと。ですから、“僕”の部屋も意識的に彩度を抜いていくデザインにしています。ただ、美術で色を引き算していくと、どんどんつまらないものになる(苦笑)。その中でもさりげなく色を感じられるように、玄関の周りにあせたグリーンを入れたり、部屋の中にブルートーンの淡い色を入れたりしています」

 

“僕”の同居人は、愛猫のキャベツ。「猫と暮らしてはいますが、豊かな感じにはしたくなかった」という杉本さんは、部屋の中の猫グッズは極力少なくしたそう。「唯一猫っぽいものというと、キャットタワー。これは、踏み台が魚の形になっていてかわいいんです。使い古された感じを出したかったので、僕の家にあったものを持っていきました。うちにも23歳になる猫がいますから(笑)。あとは、柱などにひっかき傷をつくったりもしています」

 

和風のデザインの部屋に洋風の上げ下げ窓がついている。
もともとロケで撮影した外観の建具を室内のセットにも反映
した。映画好きな主人公の趣味が垣間見える装飾も。

寝室のカーペットはあまり色を主張しないブルーに。さし色として部屋にアクセントを加えている。

実家は坂道を下った角地にある古い時計店。「ロケ撮影させていただいたのは、もとは商店を営まれていた建物で、間口のつくりも時計店にピッタリでした。立地もふくめ、これほどイメージに合った素敵な躯体の建物はほかになかったので、家主さんに頼み込みました」。昭和初期の建物には、古き良き空気が流れる。時計職人である父の作業場は緻密に飾られていて、店頭には数えきれないほどのアンティーク時計が所せましと並んでいる。

 

名古屋の時計収集家の方から借りたというアンティーク時
計。「およそ200個は並んでいます。中にはとても貴重な
ものもあって、スタッフは並べるのにも相当気を遣ってい
ました」

実家の台所や居間はお母さんの匂いが詰まったあたたかい空間。昭和的な日本の飾りの中にかわいい猫グッズも並ぶ。「“彼女”が働く映画館を撮影した場所はもともと『はこだて工芸舎』というギャラリーで、そこに猫をモチーフにした作品をつくる作家さんがいらして、お願いして使わせていただきました。猫の映画で猫グッズをつくる作家さんに出会う、こういう偶然の一致って結構多いんです。いろんな出会いが重なって、ロケ地からヒントやアイデアが生まれる。これは、映画独特の楽しみですね」

 

撮影用に美術部が集めた猫グッズ。居間に飾られたり、マグ
カップは小道具として登場したりしている。

アルゼンチンのロケで見つけた、猫が取っ手になったかわいらしい瓶は、“彼女”が働く映画館の受付に。さりげなく置かれている“僕”と“彼女”の思い出の品。

函館の十字街の交差点にあるギャラリーの一部を改装して映画館に。外観は、横浜市中区にあった横浜日劇(2007年に解体)を彷彿とさせる懐かしい雰囲気。「目の前に路面電車が走っていて、永井監督もとても気に入っていました」。

 

映画館の2階には“彼女”が暮らす部屋がある。実際の撮影
でも、同じ建物の2階の一室を飾り込んでつくられた。

 

2階建ての下宿風アパートで、“僕”の部屋は2階に位置している。古びているが間取りは2Kで、猫との暮らしにも十分な広さ。

 
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#100(2016年6月号 4月18日発売) 『世界から猫が消えたなら』の美術について、杉本さんのインタビューを掲載。
プロフィール

杉本 亮

sugimoto ryo
76年千葉県生まれ。美術助手として種田陽平、原田満生に師事。07年映画『カメレオン』で美術監督デビュー。映画『悪人』(10)、『許されざる者』(13)で日本アカデミー賞優秀美術賞を受賞。おもな作品に、『まほろ駅前多田便利軒』(10)、『外事警察 その男に騙されるな』『モンスターズクラブ』(ともに11)、『晴天の霹靂』(13)など。
ムービー

『世界から猫が消えたなら』

監督/永井聡 脚本/岡田惠和 原作/川村元気 出演/佐藤健 宮﨑あおい ほか 配給/東宝(16/日本/103min) ある日余命宣告をされた郵便配達員の“僕”。現実を受け止められない彼の前に現れたのは、自分と同じ姿をした“悪魔”。悪魔は「世界からひとつものを消す」ことを条件に、1日の命をくれるという。その取引で、僕は大切なものをひとつずつ消してしまうのだが……。5/14~全国公開 (C)2016映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会
『世界から猫が消えたなら』公式HP
https://twitter.com/sekaneko2022
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