Room51  

2016.2.12

熟年離婚にも負けない!?

三世代同居の平田家の一軒家

美術監督 倉田智子

『男はつらいよ』の生みの親でもある山田洋次監督の最新作『家族はつらいよ』。熟年離婚をとりまく家族の喜劇の舞台となるのは、三世代が暮らす一軒家。美術監督を務めるのは、京都を拠点に長く時代劇の美術に携わり、山田洋次監督初の時代劇『たそがれ清兵衛』や、『隠し剣 鬼の爪』にも美術助手として参加した倉田智子さん。築30年、家族の歴史が詰まった空間をどのようにつくりあげたのか?

家族のためのリビングと夫婦の歴史を映した寝室

台本に「東京郊外の丘陵地にある住宅」とあった三世代が暮らす平田家の一軒家は、劇中では神奈川県横浜市青葉区美しが丘にある設定に。映画の舞台となるこの家は、外観はロケ撮影、中はセットで建てられた。 「まずは、外観を探すところから始まりました。この家は30年前に、主である周造(橋爪功)さんがオーダーメイドで建てたという設定。ですから、坂道にある築30年くらいの、建て売りではないお家。さらに駐車場が表にあってリビング側の庭が道路から見えない物件を探しました。かなり時間はかかりましたが、最終的に、モダンなつくりとブルーの屋根がほかのお宅と少し違うということと、お芝居の流れなども総合的に考えてこの家に決まりました」

 

セットで建てられた家の中で、最もこだわったのはリビングだ。山田監督は広さにもこだわっていたため、『東京家族』の家の図面を参考にしながら程よい広さを考えていったという。 「リビングは家族みんなが集まる場所なので、それぞれのお気に入りのものを少しずつ置くことにしました。たとえば、周造さんはお酒が好きなので、アンティークなキャビネットに酒瓶を置いたり、妻の富子(吉行和子)さんは刺しゅうもやっているので、その作品を飾ったり。階段の踊場には孫たちの遊び道具を置いたりして、雑多な感じにならないよう気を付けながら、生活感を出すように心がけました」

倉田さん自身がこだわったのが、リビングにあるソファ。ベースの形から布まで選んでつくったセミオーダーのもの。「色は落ち着いているけど沈みすぎないものを。周造がソファに寝転ぶ芝居もあるので、ほどよい大きさで、あまりどっしりとしたデザインでなく、柔らかいラインのものを選びました」

「周造の孫の信介が階段の手すりを使って滑り降りてくるようにしたい」という監督の要望から、長さや角度に気を付けてセッティングしたという階段。「自分で滑ってみようと試みたのですが、結構急勾配で滑られなくて……。でも撮影当日、演じる丸山歩夢くんは躊躇なくすいすい滑り降りてくれて、ホッとしました」

 

周造が可愛がっている犬のトトの家は、『小さいおうち』に
登場する、赤い屋根のかわいらしい家がモデル。

離婚の危機に瀕する熟年夫婦、周造と富子の寝室は2階にある。夫婦それぞれの歴史を感じる装飾は細部まで丁寧に飾りこまれている。 「富子さんは、もともとアンティークの家具が好きな方。嫁入り道具の桐たんすなど、長年大切に使い続けているだろうものを置きました。周造さんのスペースは、監督が『普通の感じにはしないでくれよ』とおっしゃったので、趣味から考えていき、助監督や装飾スタッフと相談しながら飾っていきました。ゴルフが好きなので、きっと釣りもやっているんじゃないかな。古い映画も好きだし、葉巻もたしなむかもしれない……という風に。監督に見ていただくときは、とてもドキドキしましたが(笑)、『なんかおもしろいじゃない!』と言っていただけたので、うれしかったですね」

夫婦の寝室の壁紙は落ち着いたベージュのドット柄で年代を感じさせる。「もう廃盤になっているものだったので、在庫だけで足りるかどうか心配しながら貼ってもらいましたが、ちゃんと足りたので安心しました」

文学が好きな富子の趣味のスペース。富子の弟は作家だったため、弟が出した小説や原稿用紙なども並べてある。

周造のスペースには、趣味の本や好きな映画のDVDなどが。
「映画は、小津安二郎監督の作品が並んでいます」

普段時代劇を手掛けることの多い倉田さんが苦労したというのが庭。「時代劇では障子を閉めてしまえば見える範囲も限られますが、ガラス戸の場合、庭やその奥の隣のお家まで見えるので、どこまでつくりこんだらいいかとかなり頭を悩ませました」

1階にはリビングダイニングと、長男夫婦の部屋。2階に周造と富子の寝室と、次男、孫たちの3部屋がある。通常は玄関の近くにある階段を、あえてリビングに置くことで、出入りの際も家族が必ず顔を合わせる、にぎやかなリビングという印象になった。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#99(2016年4月号 2月18日発売) 家族はつらいよ』の美術について、倉田さんのインタビューを掲載。
プロフィール

倉田智子

kurata tomoko
69年広島県生まれ。西岡善信氏に師事し、映像京都に入社し、数々の時代劇に携わる。99年ドラマ『御家人斬九郎』でデザイナーデビュー。おもな作品に、『娘道成寺 蛇炎の恋』(04)、『関西ジャニーズJr.の京都太秦行進曲!』(13)、『超高速!参勤交代』(14)がある。『超高速!参勤交代 リターンズ』は16年公開予定。
ムービー

『家族はつらいよ』

監督/山田洋次 脚本/山田洋次 平松恵美子 出演/橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣 中嶋朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優 配給/松竹(16/日本/108min) 会社を退職し、ゴルフにお酒にと隠居生活を楽しんでいる平田家の主・周造(橋爪)。ある日、周造は妻・富子の誕生日をすっかり忘れ、いつものように酔っぱらって上機嫌で家に帰る。そこで、妻が持ち出してきたのはまさかの離婚届だった……! 3/12~全国公開 © 2016「家族はつらいよ」製作委員会
『家族はつらいよ』公式HP
https://www.shochiku.co.jp/cinema/lineup/kazoku/
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