Room49  

2015.12.11

富山県新湊に建つ

網元が暮らす伝統的町家

美術監督 宮﨑洋

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『池中玄太80キロ』などで知られるテレビドラマ界の巨匠・石橋冠監督が、妻の故郷・富山県新湊(しんみなと)を舞台に初の映画づくりに挑んだ『人生の約束』。45年間、テレビ業界でドラマをはじめ様々な番組の美術デザインを担当してきた美術監督の宮﨑洋さんにとっても初めての映画作品への参加となった。「日本のベニス」と称される新湊、美しい内川沿いに暮らす漁師の住まいをどのように描いたのだろうか?

母屋には富山ならではの伝統的工法を再現

親友の死を知り、主人公の祐馬(竹野内豊)がやってくるのが、親友・航平の義兄・鉄也(江口洋介)の家。鉄也は定置網漁を営む網元で、家は古くからある町家だ。表通りに面した入口と家の裏にある番屋はロケで撮影、母屋の中はセットで建てられた。 「町家といっても地方によって特徴があり、新湊の町家は、京都や富山の町家のように通り抜けできるトオリニワ(家の表から裏まで通された土間)にはなってなくて、玄関を上がると、板敷になった広間があって、その先に台所という風に続いています。広間は富山らしい特徴を反映して枠の内造り(富山の伝統的工法。部屋の四方に立つ太い柱をヒラモノと呼ばれる指し鴨居と梁で繋ぎ、貫を何本も横に通した伝統的木組み)にしました。
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広間の天井、壁に見られる枠の内造り。洋風のソファやカーペットを敷いたのは、現代の雰囲気を感じさせる演出。

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本来は親子の寝室にもなる和室。劇中では、亡くなった親友の祭壇がつくられている。

 
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座敷から内庭へは土縁(板張りでない、土間仕上げの縁側)
になっている。これも、雪の多い北陸地方でよく用いられ
ているそう。

スタジオの中で梁を架けるのがかなり大変で、スタッフは苦労していました。映画らしい質感を大事にしたかったので、そういう意味では手ごたえがあります。あまり多くは映っていないけど(笑)、映画館で観てもらえるとうれしいですね」。 母屋の裏には二棟の蔵があり、その蔵の間を抜けたところに番屋がある。「番屋は漁師たちが、漁に出る準備をしたり、休憩をしたりする場所。新湊で定置網漁をやっている網元さんには、大体こういった番屋があって、ロケハンでも何軒か見せていただきました。」。番屋は内川に面して建っていて、川には漁船が停めてあり、ここから海へ漁に出ていくという。
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番屋は2階建てで、1階は漁師たちが冷えた体を温めたり、食事をとったりするスペース。2階には漁で使う網などが積まれている。

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撮影では番屋ではない場所をお借りしたので、壁や柱は生かしてそこに飾り込みをしていきました。実際の番屋を借りられたらリアリティがあっただろうけど、監督は番屋から内川がきれいに見える場所を探していたんです。ロケでお借りした場所では了承をいただいて、内川が見えるように入り口を少し広げさせてもらいました」 映画のハイライトでもある新湊曳山まつりでは、「石橋監督が『曳山は美しいからそのまま撮りたい』とおっしゃったので、美術で手を加えたり新しく何かをつくったりすることはありませんでした。地元の皆さんもとてもよく協力してくださいました」。360年もの歴史を誇るこの祭りは、毎年10月1日に催されるので、富山を旅行する際には是非訪れていただきたい。
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放生津(ほうじょうづ)八幡宮の祭礼に合わせて、最大で8トンを超える曳山(山車/だし)が13本も連なって町内を巡行する。昼には造花でつくられた花傘を立てる「花山」、夜は花傘に変えて提灯を組んだ「提灯山」の姿に変わる。

 
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新湊ならではの、町家の特徴を生かした間取り。前庭に面した廊下には、経理などの仕事をする小さな作業場がある。玄関から台所へ抜けるスペースは、京都の町家のようなトオリニワにはなっておらず、土間を上がると板張りになっていて、台所へと続く。2階には航平の娘の部屋がある。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#98(2016年2月号 12月18日発売) 『人生の約束』の美術について、宮崎さんのインタビューを掲載。
プロフィール

宮﨑洋

miyazaki hiroshi
47年東京都生まれ。70年日本教育テレビ(現・テレビ朝日)に美術の専門職として入社。82年『雨上がりの女』でデザイナーデビュー。石橋冠演出ドラマ『点と線』(07)、『松本清張 黒い福音〜国際線スチュワーデス殺人事件〜』(14)をはじめ、多くのドラマに参加する一方、『ニュースステーション』(85~04)、『ミュージックステーション』(86~)などの番組セットなども手掛けた。
ムービー

『人生の約束』

監督/石橋冠 脚本/吉本昌弘 出演/竹野内豊 江口洋介 西田敏行 ほか 配給/東宝 (15/日本/120min) IT関連企業のCEO・中原祐馬(竹野内)は、ともに起業しながらも決別した親友・航平の死を、彼の故郷である富山県新湊で知る。病に侵された航平の最後の願いは、曳山に“つながる”こと。しかしその町の曳山は、人手と維持費不足によって、隣町に譲渡されてしまっていたのだった。1/9~全国東宝系にて公開 ©2016「人生の約束」製作委員会
『人生の約束』公式HP
https://www.cinematoday.jp/page/A0004838
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