Room48  

2015.11.6

家族に恋に、一途な 伸行の

必要最低限の暮らし

美術監督 松本知恵

raintree_48_01.jpg
「図書館戦争」シリーズ第二弾「図書館内乱」の中に登場する架空の小説を作品化した『レインツリーの国』。この累計88万部を超えるロングセラーが映画化。1冊の本を通して巡り合った伸行とひとみの恋模様を描く。三宅喜重監督とともに『阪急電車 片道15分の奇跡』に続き、有川浩原作の映画化へ取り組んだのは美術監督の松本知恵さん。主人公・伸行が暮らす部屋が出来上がるまでをきいた。

「映画の中で成立する地図」にある住まい

主人公の伸行(玉森裕太)が大阪から上京して暮らし始めるマンションは、横浜の青葉区千草台にある物件で撮影。「場所の設定は、台本に書いてあるわけではなくあえて表現することもないのですが、スタッフ間でイメージを共有しておくために、最初に演出部が映画の中で成立する地図をつくります。勤務先は品川辺り。横浜方面から通い通勤時間は30~60分くらい、伸行の収入に見合った住まいだとしたら……と、いう風に。そういった想定に合わせて美術も考えていきます」。
raintree_48_02

「いずれは関西に戻るつもり」くらいの部屋になるよう、大阪の実家から持ってきたものもほとんどない。家具も簡易的なもののみに抑えている。

raintree_48_03

物欲が強くないであろう伸行のキャラクターを考えて、デス
クまわりもパソコンなど必要な仕事道具のみに。

raintree_48_04

あまり自炊をしないため、キッチンもきれいなまま。食品会社に務めていることから、夕食をレトルト商品の試食サンプルですますことも。

 
raintree_48_05

三宅監督との話し合いで、低めの位置で芝居がつくれるよう
に生活スペースにローテーブルなどを配置している。

就職のため大阪から東京へやってきた伸行。その部屋は「実家にもよく帰っている設定なので、部屋の中はものがなくシンプルでお金をかけない、最低限生活できる空間にしました。演じるのが玉森裕太さんなので、手を入れすぎるとオシャレな雰囲気になってしまう。ですから、あまりインテリアを含めて、物にこだわっていない感じを出しました」。 「部屋としてかっこ良く見せるためのカラーコーディネートはあまり考えない」という松本さん。「通常、撮影では照明や色調補正で目視とは異なった色になるので、テスト撮影を踏まえて色味を考えます。ただ、今回はあまり色にはこだわらなかったですね。個人的にはモノトーンがあまり好きではないので、茶系で合わせたと思います。男性の部屋の場合は色から入らずに、デザインや機能性を重視することの方が多いですかね」
raintree_48_08

大阪の実家は、1階が母の営む美容室で2階に伸行の部屋がある。「それぞれ別で撮影していて、実際は大阪ではなく、両方とも東京の物件です。建物の構造や質もまったく異なるので、全体の雰囲気と1階と2階をつなぐ階段からの部屋の見え方を重視して飾りました。建物が違っても映像的に繋がるかどうかは心配していませんでしたが、演じる方は大変だったかもしれません」。伸行の部屋には「ストーリー上は語られない、登場人物の生きてきた過去を想像して」飾った、学生時代の部活道具や小学校時代の漫画、ゲームなどが並ぶ。「出来るだけ年代に近いものや、関西っぽいものを入れ込んでいます」

また、劇中には伸行が恋をする女性・ひとみ(西内まりや)の住まいも登場する。彼女は実は、感音性難聴という秘密を抱えているのだった。「撮影前、実際に聴覚障がい者の方にお話を伺って部屋をつくっていきました。装飾では、耳で反応するような目覚まし時計などではなく、実際に何を使われているか伺って視覚的に反応できる道具を配置していきました。家具でも、通常机は窓や壁向きに置きますけど、部屋の入り口が見えるように配置するなど。教えていただいたことを部屋に反映しています。ですが、それを映画の中でことさら大げさに表現して説明っぽくならないように気をつけてつくっていきました。美術の狙いがストレートに伝わらなくても、実際そこで芝居をする役者さんたちの助けになっているといいなと思います」
raintree_48_11

1Kながら広めでバストイレは別。空間を分けずに、必要最低限の家具を配置した、男性らしい実にシンプルな間取り。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#97(2015年12月号 10月17日発売) 『レインツリーの国』の美術について、松本さんのインタビューを掲載。
プロフィール

松本知恵

matsumoto chie
69年東京都生まれ。映画美学校卒業後、黒沢清監督の『回路』(01)に美術スタッフとして参加し、映画美術の道へ。『LOFT ロフト』(06)、『トウキョウソナタ』(08)などその後も多くの黒沢作品に参加。近作に、『八日目の蝉』『阪急電車 片道15分の奇跡』(ともに11)、『くじけないで』(13)、『近キョリ恋愛』(14)、『迷宮カフェ』(15)など。
ムービー

『レインツリーの国』

監督/三宅喜重 原作/有川浩 出演/玉森裕太(Kis-My-Ft2) 西内まりや 高畑淳子 配給/ショウゲート (15/日本/108min) 高校時代に好きだった小説「フェアリーゲーム」の結末を知りたくて、「レインツリーの国」というブログにたどり着いた伸行(玉森)。ブログの管理人・ひとみ(西内)と知り合い、ふたりはゆっくりと惹かれ合っていく。直接会いたいと願う伸行だったが、ひとみはなぜかそれを頑なに拒むのだった。11/21〜全国公開 ©2015「レインツリーの国」製作委員会 
『レインツリーの国』公式HP
https://twitter.com/raintree_movie
住まいさがしをはじめよう! 人気のテーマこだわり条件で新築マンションを探す その場所は未来とつながっている こだわり“部屋”FILE HOMETRIP
関連するお部屋
“男子部屋”
MENU

NEXT

PREV