Room44  

2015.7.3

人間の子どもとバケモノの楽しい暮らし

南国の気候の中に建つ開放的な家

美術設定 上條安里

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『おおかみこどもの雨と雪』で知られるスタジオ地図が贈る、細田守監督最新作『バケモノの子』。人間の子ども・九太と、バケモノの熊徹、ふたりが師弟関係を結びともに成長していく感動の冒険物語だ。今作の美術設定を手がけたのは『ALWAYS 三丁目の夕日』など数多くの実写作品を手がけ、細田作品へは三度目の参加となる上條安里。渋谷によく似たバケモノの都市・渋天街や、人間とバケモノが暮らす一軒家など、ファンタジーでありながら、写実的な世界観はいかに出来上がったのか。

渋谷のような渋天街と石造りの一軒家

物語のおもな舞台、バケモノ界にある都市・渋天街(じゅうてんがい)のベースとなったのは、リアルな東京都渋谷の街並みだ。 「いまは高い建物が多いから気付きにくいけど、その名の通り渋谷は谷になっているんです。渋天街はその形状に合わせて、実際より谷の深さを倍ぐらいにして、現在の渋谷に重ねるようにつくりました。渋天街の入り口にある門は三千里薬品のネオンに似ていますが、それは細田守監督のアイデアです。SHIBUYA109がある場所にはよく似た外観の給水塔を建てたりしています。渋谷ヒカリエの場所には、昔同じ所にあった五島プラネタリウム(2001年閉館)。僕は渋谷で子供時代を過ごしたので、あの建物はどうしても入れたかったんです」
バケモノの熊徹が住む家は、道玄坂をのぼりきった百軒店商店街あたりに建っている設定。渋天街は渋谷と違い南国のような暖かな気候で、間取りも開放感あふれるつくりになっている。 「部屋に入ったときに『怖い』というより、『かわいい』という印象が残るようにしました。壁の質感も、日本的なウェットな感じではなく、南方の国のような乾いた感じがでるように」

ブラジルのファヴェーラを意識したという街並の中に建つ熊徹の家。石造りの壁に這わせたツタや家の隣にある大きな木などで、季節感や劇中での時間経過を表現した。

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インテリアでひときわ目をひくのが、リビングに置かれた大きなソファ。熊徹のベッド代わりだ。 「これは昔、熊徹にたくさん弟子がいて羽振りが良かったころに買った1点もの。家の中で豪華な品はそれだけです。九太が来たばかりのころは部屋が散らかり放題。熊徹には、片付ける才能がないんです(笑)。ふたりが一緒に住むようになってからは、九太が弟子として部屋を片付けるようになります。そこから設定も大きく変えました。壁の汚しをどの程度にするか、どのような小物を置いていくか、監督と何度もやりとりしていくうちに、部屋には何にもなくなってしまいました(笑)。それは九太の性格を考えて行き着いたところです」

熊徹の衣裳部屋は九太の寝床でもある。天井には竹が組まれ所狭しと洋服が並ぶ。「熊徹は実はおしゃれさんという設定なんですよ(笑)」

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和洋中、様々な要素を盛り込んだ台所。懐かしさのある「網
に入った石けん」は上條さんのお気に入り。「台所にはかま
ど(写真右はじ)があるのですが、これはファヴェーラの
ものを参考にしました」

ダイニングスペースには、ふたりの定番朝ごはん「卵かけごはん」が。産みたての卵をたっぷり入れるのが熊徹流。

bakemono_44_11.jpg 熊徹の家から街へ続く三叉路のモデルは、渋谷で通称・道玄
坂小路と呼ばれる路地のあたり。レンガの建物(写真右側)
は、中華料理店・麗郷に似ている。
細田監督作品のおもしろい点は「スタッフの使い方」という上條さん。 「僕は実写作品がメインで、これまでアニメーションに関わったのは細田さんの作品だけなんです。衣裳はスタイリストの伊賀大介さんが担当していますしね。ただ、今回は細田さんからのリクエストが『おおかみこどもの雨と雪』に比べて、50倍ぐらいありました(笑)」

熊徹の家の近所には九太との修行場所も。

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渋天街の主な産業は繊維業。モロッコの風景を参考にしたという市場はテントで構成され、店の軒先には布が垂れ下がり、彩りをそえている。

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街の中には学校も。外観はファヴェーラの建物を、日本の学
校風につくり変えたのだとか。「グラウンドの金網にはこだ
わって、いろんなパターンをつくり細田監督からオーケーを
もらいました。実際には編むことはできない模様なのです
(笑)」

台所や庭にある勝手口は、扉でなくカーテンで仕切るという開放的なつくり。家の隅々まで風が通るような気持ちのよい間取り。玄関脇の階段を上ると、屋根の上で洗濯が干せるようになっている。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#95(2015年8月号 6月18日発売) 『バケモノの子』の美術について、上條さんのインタビューを掲載。
プロフィール

上條安里

jojo anri
62年東京生まれ。85年に美術デザイン会社、サンク・アールに入社、CMなどを手がける。96年に『7月7日、晴れ』で初めて映画美術として参加。以降、山崎貴監督作をはじめ、数多くの映画で活躍。『永遠の0』(13)では、日本アカデミー賞最優秀美術賞を受賞。細田監督作品への参加は『サマーウォーズ』(09)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)に続き3作目。
ムービー

『バケモノの子』

監督・脚本・原作/細田守 作画監督/山下高明 西田達三 美術監督/大森崇 髙松洋平 西川洋一 美術設定/上條安里 企画・制作/スタジオ地図 配給/東宝 (15/日本/119min) バケモノ界の宗師となるため、弟子を探していた熊徹。ひとりぼっちで渋谷をさまよっていた少年・九太。ふとしたことから出会ったふたりは師弟関係を結び、互いに成長を遂げていく。冒険、アクション、淡いロマンスがつまったエンターテイメント感動作。7/11~全国公開
©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
『バケモノの子』公式HP
http://www.bakemono-no-ko.jp/index.html
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