Room43  

2015.6.12

男やもめが暮らす

夢のかけらが詰まった部屋

美術デザイナー 清水 剛

『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』など、2015年も数多くの作品を発表し続ける映画監督・園子温が、CGを使わず、特撮を駆使して描く大人のためのおとぎ話『ラブ&ピース』。主人公は、ロックミュージシャンの夢に挫折し、楽器の部品会社で働くしがないサラリーマンの鈴木良一(長谷川博己)。彼の奇妙な運命のスタート地点となるアパートの一室にはどんなこだわりをちりばめたのか。美術デザインの清水剛さんに訊いた。

細部へのこだわりがイメージを形づくる

古い木造アパートの2階の一室を借りて撮影された、鈴木良一の住まいは「THE貧乏」をイメージしたという1Kの狭い空間。壁にはレコードやポスターなどが所狭しと飾られている。 「貧乏とはいっても、『何もない貧乏』ではなく、『捨てられない貧乏』。僕の若い頃もそうでした。映画だからこそカメラがどこを切り取ってもいいように、物はかなり詰め込みました。観た方には『結構お金持ってるじゃない!』と言われるかもしれないです(笑)」
width=

押入にびっしり、かつ、規則的に入れられた、コンポやアン
プ、フィギュアなどの装飾は、良一の好みや性格の細かさを
想像させる。

和室の中央に配置したコタツは、物語の鍵になる「人生ゲーム」をやるスペースでもある。販売元のタカラトミーに許可を得て、オリジナルの人生ゲームを制作。コタツの天板も、そのサイズに合わせて選んだというこだわり様。 「良一が飼っているカメが、ルートを通れるようにつくらないといけないので、実際にカメを置いて『この角度だと曲がれない』とか『この傾斜は登れないよ』とか、美術部の大人たちが頭を悩ませながらつくりました」
width=

人生ゲームをつくるため、美術部には専任のスタッフがいた
のだとか。

ロックミュージシャンの道を上り詰める希望を込めた、
良一の手づくり人生ゲームも。

カメとの出会いによって、良一の人生は驚くべき展開を迎える。やがてミュージシャンとしてスカウトされ、川沿いの豪華なマンションをあてがわれることになるのだ。 「ここもロケ撮影だったのですが、キッチンもダイニングスペースもある、とにかく横に長いワンルーム。空間があまりにも漠然としすぎてしまうため、ワンクッションおきたいと思って水槽を用意して、区切りをつけました」

部屋の奥には隠し部屋があり、アパートの一室を再現。「同じ印象になるように装飾しました。壁にかけている窓は、アパートで実際に取り付けた、美術部でつくったものです」。

劇中に印象的に登場するのが、謎の老人(西田敏行)が暮らす地下の世界。「映像の色調として参考にしたのは、ティム・バートンの『バットマン リターンズ』(92)での、ペンギンが乳母車で流されるシーン」。言葉をもった、たくさんの人形や動物たちが集まる、可愛らしくも、不思議な異空間はすべてセット。大勢のパペットを一度に動かすため、床を地面から1m20cm上げ、背景の棚には穴をあけ、裏側に操作する人が入れるように工夫を凝らした。 「なにせ一斉に動かすので、かなりの人数が必要でした。長谷川博己さんら出番のない俳優陣も来ていて。助っ人で呼ばれていたのかな(笑)?」

「園監督が『パペットは20体くらい、動物が20匹で、合わせて40くらい』とおっしゃるので、プロデューサーも真っ青に。当初は2〜3体と言っていたので、ゼロがひとつ多かった(笑)。CGではなく、実像がいいと頑として曲げないので、スタッフは動物のプロダクションにお願いしたり、パペットをつくったりと想像を超えた作業でした」

loveandpeace_43_15

本来は間取りは2Kだったが、奥の部屋への入り口を閉じて窓を取り付け、1Kの部屋に仕立てた。この絶妙な狭さが侘しさを醸し出し、後の物語の展開に効いてくる。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#95(2015年8月号 6月18日発売) 『ラブ&ピース』の美術について、清水さんのインタビューを掲載。
プロフィール

清水 剛

shimizu takeshi
60年神奈川県生まれ。『電影少女』(91)で美術監督デビュー。『BRAVE HEARTS 海猿』(12)、『リアル 完全なる首長竜の日』(13)など話題作を数多く手がける。近作に、『共喰い』『ルームメイト』(ともに13)、『抱きしめたい 真実の物語』『ニシノユキヒコの恋と冒険』(ともに14)など。15年も『予告犯』、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(8/1公開)など次々と参加作品の公開が続く。
ムービー

『ラブ&ピース』

監督・脚本/園子温 出演/長谷川博己 麻生久美子 西田敏行 ほか 配給/アスミック・エース(15/日本/117min) ロックミュージシャンを目指していたが挫折し、今ではうだつの上がらない毎日を過ごしているサラリーマンの鈴木良一(長谷川)。同僚の寺島裕子(麻生)に想いを寄せるも、話しかけることすら出来ない。そんなある日、ミドリガメと出会ったことで、ロックミュージシャンへの夢や裕子への恋を取り戻していく。6/27~TOHOシネマズ新宿ほか全国公開 ©「ラブ&ピース」製作委員会
『ラブ&ピース』公式HP
https://www.asmik-ace.co.jp/lineup/2159
住まいさがしをはじめよう! 人気のテーマこだわり条件で新築マンションを探す その場所は未来とつながっている こだわり“部屋”FILE HOMETRIP
関連するお部屋
“男子部屋”
MENU

NEXT

PREV