Room04  

2012.7.6

田舎町にある深い緑に囲まれた古民家

どこか懐かしさのある花と雨と雪の家

美術監督 大野広司

『時をかける少女』『サマーウォーズ』の細田守監督最新作、『おおかみこどもの雨と雪』。主人公の花が恋愛、結婚、出産を経て、子育てに奮闘する姿を描く。結婚相手は“おおかみおとこ”、産んだ子どもは半分おおかみというおとぎ話のような展開の中で、ひとりの女性がたくましく成長していく姿には共感を覚えずにはいられないはず。美術監督の大野広司さんに、主人公の花がふたりの子どもと暮らす家と田舎町について語ってもらいました。
text by 釣木文恵

古民家ならではの古さと、その中に光る小ぎれいさ

細田監督と美術デザイン担当の上條安里さん(『ALWAYS 三丁目の夕日』の美術を担当)が練り上げた設定資料をもとに、時間や季節ごとに色を変え、シーンごとにアングルを変えてイメージボードを描いていきました。
古民家を描くために、実際に監督の実家の近くである富山県の上市町までロケハンに行ったんです。ガラス戸の枚数や形は変わったけど、基本ロケハンした家とつくりはほとんど同じ感じです。
切妻屋根で、開放的なつくりの平屋建ての古民家。美術監督大野さんが描いた美術ボード(上)と、古民家のまわりの植生を記した設定画(中)。下2点は、上條さんによる美術設定資料。「草花のディティールには、自分の趣味もけっこう反映されています。自宅のベランダがジャングルみたいになっているほど好きですから(笑)」と大野さん。
最初のシーンでこの家をどこまでボロボロにしておくのか、掃除によってどこまできれいにするのかは気をつけて描きました。あまりきれいにしすぎてもリアリティがない。でも汚いままでは主人公の花がだらしなく見えてしまう。柱一本の傷つけ方にも注意しました。
生活の中心的なスペースである、居間。美術ボード(上・右下)と劇中映像(左下)。色合いや光の感じをどう描くかに苦心したとのこと。たとえば夏のシーンなら、「夏の昼下がりの、日本家屋独特のひんやりとした暗い雰囲気」を出すため、畳への映り込み一つをとっても、光や色がどれぐらい反射するか試行錯誤が凝らされている。
花が掃除をしているシーンで写る台所の流しのタイルは三回ぐらい描き直しました。古いけれどかわいらしい感じのものです。監督から「このシーンの台所のタイルだけは宝石みたいにキラキラした感じにしてほしい」と言われて、最初は汚れていたものを描き直し、ピカピカに磨き上げたものにしたんです。
タイルといえばお風呂の床にも、えんじ色と黒と白の玉目のものを描きました。ノスタルジックな雰囲気のあるタイルがポイントです。
主人公の花たちが引っ越してきたときの台所の劇中映像(上)と美術ボード(左下)、お風呂場シーンの劇中映像(右下)。ロケハンした古民家にあったのは小さな台所だったが、設定段階で美術デザイン担当の上條さんが広い仕様に変更したそう。土間に敷いた簀の子(すのこ)に立って調理や洗い物、というスタイルは古民家ならでは。
納屋スペースも特徴的な農村型の古民家。親子三人で暮らすには充分すぎる広さ。壁として固定された部分が少なく、襖(ふすま)を取り払うと空間が一面に広がる。開放的なつくりは室内だけでなく、縁側もガラス戸を外すと柱二本を残してすべて開口部になる。
映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#77(2012年8月号 6月18日発売)
『おおかみこどもの雨と雪』の美術について、大野さんのインタビューを掲載
プロフィール

大野広司

ohno hiroshi
52年愛知県生まれ。83年アニメーションの背景画を制作するスタジオ風雅を設立。美術監督として『魔女の宅急便』(89)、『走れメロス』(92)、『苺ましまろ』(TBS)、『ももへの手紙』(12)など。
ムービー

『おおかみこどもの雨と雪』

監督・脚本・原作/細田守 脚本/奥寺佐渡子 キャラクターデザイン/貞本義行 作画監督/山下高明 美術監督/大野広司 声の出演/宮崎あおい 大沢たかお 菅原文太 黒木華 西井幸人 大野百花 加部亜門 企画・制作/スタジオ地図 配給/東宝 (2012/日本/117min) 大学生の花は、人間の姿で暮らす“おおかみおとこ”と出会い、結婚。おおかみと人間、ふたつの顔を持つ“おおかみこども”の雨、雪を産むが、父であるおおかみおとこが死んでしまう。花は都会を離れ、田舎町に移り住むことを決意する──。7/21~全国東宝系で公開 ©2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
『おおかみこどもの雨と雪』公式HP
http://www.ookamikodomo.jp
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