Room20  

2013.8.9

時代を映したリアルな空間づくり

仕事場を兼ねた古き良き昭和の住まい

美術監督 安宅紀史

瀬戸内寂聴の同名私小説を映画化した『夏の終り』。妻子ある年上の作家・健吾と、年下の元恋人・涼太との間で揺れ動く知子の女としての性が描かれている。物語の舞台は昭和30年代。知子の自宅兼仕事場であるレトロな佇まいの長屋が、時代背景を物語っている。ひと目で昭和だとわかる空間をつくるには、どんな工夫が必要だったのだろうか?美術監督の安宅紀史さんにポイントを聞いてみました。 text by 小竹亜紀

細部へのこだわりが昭和30年代のノスタルジックな空間を生み出す

知子の作業場は、何年も作業しているという雰囲気を出すため、エイジング(汚し)をかけた。当時の建物が残っている「ニッケ住宅」周辺に建つため、窓の外も当時と大きく変わらない景色が見える。

雪見障子と情緒のある小さな縁側の向こうには裏庭がある。
知子が藍染の作業をするための甕や、染色した布を乾かす
干場がある。

主人公・知子の住まいは、2階建て長屋。明治末期から昭和初期に建てられた、兵庫県加古川市に実際にある「ニッケ社宅」の近辺で撮影された。メゾネットタイプと言える長屋の間取りは、台所、居間、寝室に慎吾の書斎を加えた1階の居住スペースと、染色家である知子の仕事場の2階という構成。 「知子の仕事である“長板染め”ができるスペースが必要でしたので、作業場は広い2階につくりました。元々あった畳を上げて板敷きにし、一部、染色の前段階の絵を描くなどの作業をするスペースは畳のまま残しています」 参考にしたのは、実際に染色をしている方の作業場。押入れだった場所を解体し道具を掛ける壁にするなど、工夫も見られる。「知子の仕事である染色を象徴する〈記号〉として背景にしたかったのです」。

小説家である慎吾の机周りに置かれた雑誌や本は、昭和30年代に発行された古本を中心に収集。新刊の雑誌は表紙をつくり変えたりもしたという。

住居スペースはきちんと整理されていて、女性らしいモダンなアイテムが並ぶ。花柄の油ランプやガラスの水差しなど、昭和につくられたものをアクセントとして置くと、一気に部屋がレトロな雰囲気になる。「小道具でも昭和初期を意識しました。時代感を出しやすいアイテムのタバコは、当時の図柄をデータから起こして作ったものです。カーテンも当時のデッドストック生地で作りました。電話やラジオなどはレンタルもしましたが、火鉢や湯のみなどの小物の中には、僕がロケ地の古道具屋を巡って購入したものや、いろんな方のご厚意でお借りしたものもあります」。

知子と慎吾の関係を配慮し、玄関寄りの部屋は寝室に、居間は奥へ配置。通り土間には居候の慎吾の書斎がある。1階の細々とした居住スペースに対し、2階の広々とした仕事場が、知子の生き方を反映しているよう。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#84(2013年10月号 8月17日発売)
『夏の終り』の美術について、安宅さんのインタビューを掲載。
プロフィール

安宅紀史

ataka norifumi
71年生まれ。99年『月光の囁き』で美術監督デビュー。木村威夫氏に師事し、『ピストルオペラ』(01)、『父と暮らせば』(04)に美術助手として参加。美術監督として、『ノルウェイの森』(10)、『横道世之助』(12)などを手掛ける。熊切作品には『莫逆家族 バクギャクファミーリア』(12)で携わり、14年は『私の男』が公開予定。
ムービー

『夏の終り』

監督/熊切和嘉 原作/瀬戸内寂聴 出演/満島ひかり 綾野剛 小林薫 ほか 配給/クロックワークス(12/日/114min) 妻子ある年上の作家・慎吾(小林)と、八年間も関係を続けている知子(満島)。この関係に満足していた知子の前に、かつての恋人で年下の涼太(綾野)が現われる。それ以来、知子は胸中がざわつき始め……。8/31~有楽町スバル座ほかにて公開 (c)2012年映画『夏の終り』製作委員会
『夏の終り』公式HP
https://twitter.com/natsu_owari
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