CINEmadori シネマドリ|素朴なかわいらしさがにじみ出る ツマとムコの家

Room12

2013.1.18

古さをそのままに、背伸びしない空間

素朴なかわいらしさがにじみ出るツマとムコの家

美術監督丸尾知行

西加奈子のロングセラー小説を映画化した『きいろいゾウ』。「いつか、この小説の“ツマ”役を演じたい」と帯に寄せた宮﨑あおいと、この小説を愛読書として挙げていた向井理。ふたりが“ツマ”と“ムコ”の夫婦を思い入れたっぷりに演じたこの作品。身寄りのない田舎でふたり支え合って暮らすなかで、感情の揺れる出来事が忍び寄る。その舞台となる古い一軒家をどうつくりあげたのか、美術監督の丸尾智行さんに語ってもらいました。
text by 釣木文恵

長い時間を過ごす、ダイニングのテーブルがイメージを左右する

『きいろいゾウ』に登場する“ツマ”と“ムコ”の夫婦は、出会ってすぐに結婚を決め、ともに暮らす中でお互いを知っていく。スタッフは三重県の田舎町で、ふたりが暮らす家にぴったりの、広い庭をもつ古民家を見つけ出した。決め手は庭から部屋の中を見渡せること。古い家だったため、まずは撮影用に大規模な改修をほどこした。縁側のガラス戸越しの情景も撮りたいという監督の要望で、ガラス戸の上から２枚目はすりガラスから透明のガラスに替えたのだそう。
中でも長い時間を過ごす台所と、そこから続くダイニングの空間づくりに丸尾さんはとくに力を入れたという。まず目立つのがダイニングテーブル。1枚1枚選んだという洋風のタイルが愛らしさを感じるアクセントになっている。「日本で暮らす外国人がつくったテーブルを以前見かけたことがあるんです。そのちょっとした異国感が都会から田舎にやってきた二人にマッチするのではと、それらしいものをつくってみました」。

ダイニングのポイントとなる手づくりのダイニングテーブル（写真上）は手作りで味のあるタイルはタイルショップで調達した。特徴的な台所周り（写真中央、下）のかまどやタイルの流しはロケ地となった古民家にもともとあったもの。
/ INAX TILE SHOP 深大寺調布市深大寺元町5-2-4 042-488-1726

特徴的なテーブルを除けば、スタッフが方々の美術倉庫から探し出してきた古めかしい家具や年季の入った設備ばかり。しかし、全体を包むムードはなんともキュート。もっともスペースを占めるテーブルのイメージが、全体の空気を牽引しているのかもしれない。居室のふすまも、カラフルな色柄の紙で修繕するだけでスイートな雰囲気に。「試しにちょっとやってみたら監督が『もっとやれ』と。これで部屋がずいぶん明るくなりましたね」。

忘れてはならないのが“ツマ”の育てる花々。小さな花を咲かせる植木鉢が庭先にたくさん並び、素朴なかわいらしさを演出している。「あんまり花の形や種類がそろっていたり、きれいに並べすぎてもダメなんだよね」と丸尾さん。
ツマがムコのためにつくるおいしそうな料理の数々は、ドラマ『高校生レストラン』（日本テレビ）でも有名な三重県立相加高校の食物調理科の先生と生徒さんの協力によってつくられた。“夫婦が自家菜園で育てた野菜を使った料理”という設定で、とれたての食材が並ぶ食卓にはふたりの幸せな生活が垣間見える。

手作りの表札（写真上）と玄関先の植木鉢など（写真下左右）。手作り感と素朴なかわいらしさを演出。

家の菜園で採れたという設定の野菜を使った食卓に並ぶおいしそうな料理（写真上）とロケ地にもともとあった、昔ながらの味のあるタイル張りのお風呂（写真中）。地元の庭師さんにお願いしてつくったという広い庭。物語の中でツマが語りかけるソテツの木を中心に、周りの植物もいちから植えられた（写真下）。

広い台所からはムコの書斎が見え、書斎からは庭の手入れをするツマが見える。広いながらも、互いの様子が分かる間取り。縁側と居間にはご近所さんも集い、田舎らしい外に開かれたつくり。屋根裏部屋には階段をつけ、吹き抜けのある２階のようにつくり替えて寝室にした。蚊帳をつけたベットメイキングも印象的。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#80(2013年2月号 12月18日発売)
『きいろいゾウ』の美術について、丸尾さんのインタビューを掲載。

ポスト

丸尾知行

maruo tomoyuki

53年生まれ。『祭りの準備』（75）で美術助手として映画界入り。ATG、円谷プロを経て、美術監督として高橋伴明監督、黒沢清監督等の作品を手掛ける。おもな近作に『容疑者室井慎次』（05）、『ハラがコレなんで』（11）など。廣木監督とは『余命1カ月の花嫁』（09）、『軽蔑』（11）などで仕事をともにしている。